まえがき

ソングライティングに愚直なリフレインはなく、常に言葉にあわせて字脚も音程のポジションが変化。フレーズの起点やメロディの上下も絶えず変化し、繊細で高解像なタッチをサウンドで描きますがベーシックリズムはエンターテイメント音楽のおいしいところを抽出したようなコントラストの強さがあります。パーカッションもキャラクター豊か。この可憐な感傷性や乙女性と独創性の落差がオフコースの魅力の一端なのかもしれません。明瞭でパンチのあるベーシックにフィットする多数のボーカルトラックが醸すハーモニーの可憐さ、またその語彙の豊かさも驚異。カバーしたくてもカバーできない高みがあります。鑑賞者の心が凪ぎ、無にさせる凄みです。

あなたのすべて オフコース 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:小田和正。オフコースのシングル、アルバム『FAIRWAY』(1978)に収録。

オフコース あなたのすべて(アルバム『FAIRWAY』収録)を聴く

トップランカーのシンクロナイズドスイミングを見ているようなリードボーカルのダブルトラックのぴったり感が、ただでさえ透明で清涼で静謐な小田さんのボーカルにより絶世の澄み、凪をもたらします。

ねっちりとしたテンポが生殺しです。ダンスミュージックのコントラストを持っているのに、超絶繊細。パーカッションの出入りに景色も刻々と変わります。ラテンパーカスからチクチクと軽い歯ざわりのシェーカーの類まで。

間奏の不穏で予測不可能な展開。トンネルを出るたびに異世界のワームホールかよ。どこに落ち着くんだという焦燥のままにビタビタのキメフレーズのもとにまた歌詞のある歌唱パートに回帰。

ビタビタなのに繊細なバックトラックの隙間や上空を体温で満たすボーカルトラックの数々。いったい何トラック込められているのか。体温があるはずなのに冷たいのが神秘です。

左のほうでワウを効かせ響きをパクパクと揺らし、あおるエレキギター。右にはサワサワと可憐な響きのストラミングギター、それからクラヴィネットの音色がいるでしょうか。ワウギターと協調して悪だくみをしかけるヤンチャ感。間奏のシンセサイザーのこもった幻想的な音色がアクセントです。なおさらここがどこなのかわからなくなる。

音楽の振れ幅も、狂おしいほどの謎や神秘的音像・解像度もすべてを包摂して象徴・昇華する歌詞フレーズの結び、“あなたのすべて いま たぐいなきもの”。そう、人間を言語や音楽の語彙で言い切れるはずもないのです。一人ひとりが宇宙みたいなもの。リードボーカルと別の定位から降り注ぐボーカルトラックが次元違いの神の声めいています。

青沼詩郎

参考Wikipedia>あなたのすべて (オフコースの曲)

参考歌詞サイト 歌ネット>あなたのすべて

オフコース OFF COURSE ユニバーサルミュージックサイトへのリンク

小田和正 公式サイト Far East Cafe へのリンク

『あなたのすべて』を収録したオフコースのアルバム『FAIRWAY』(1978)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】高解像で強いコントラスト あなたのすべて(オフコースの曲)ギター弾き語り』)