くるり ワンダリングに寄せる聴きどころ
コーラスを印象付けるフレーズ、「Hobo!」。この単語は「渡り鳥労働者」との解釈があります。さすらいですね。どこに流れつくのかわからない人生を希望的に謳歌していきたい、そんな思いが楽曲の背景に見える気がします。あるいは、能動的に流れに対してオールを漕ぎ、未来を少しでも手中に手繰り寄せる努力も、思わぬものごととの出会いをくれることでしょう。主題の「ワンダリング(Wandering)」にもそんな、「さすらう」の意味があると思います。
聞きどころがいっぱいあります。
・おおまたぎでシンプルで力強い和声、ビートや移勢のコーラスモチーフ
・EメージャーからAメージャーへ転調してのエンディングへの到達
・ゲスト奏者のブラヴォー:山田周さんのフィドル調ヴァイオリン、ドラマー・GRACEさん
・圧巻の間奏で連なる4度間隔下行の和声展開の激流
・ラップ調ヴァースとシンガロング調コーラスの対比、コントラスト
あらゆる意匠の細部が主題:ワンダリングのもとに集結あるいは気ままに遊び、ぱっと4拍目ウラで消えるエンディングはさすらい:放浪のこの先への期待を投影させるための真っ白な画用紙のようです。
ワンダリング くるり 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:岸田繁。くるりの配信シングル(2025.9.12)。
くるり ワンダリングを聴く
放浪者、渡り鳥労働者とてその人生は三者三様、一人ひとりに見ているものも感じているものも考えることも目指すものも違うんだよと提示し、そのすべてに微笑みと讃辞を気さくに投げかけるようなフランクで愛と知恵に満ちたサウンドが尊く感動します。音の情報量がすごい。
ヘッドフォンで聴くと低音の解像度、テクスチャに込められた情景の豊かさもまたすごい。ベースの歌うようなライン、純真さが迫ります。くるりのおしるしの一面でしょう。また、フロアタムやティンパニとはまた別に、グラン・カッサ(大太鼓)がいるでしょうか。ドムン!と大地が唸り、轟くようなアクセントが大またぎにやってきて、そのたびに振動する自分の内臓の感覚に笑ってしまうような気分になります。
ハンドクラップにタンバリンが多用なホーボー達の輪に思えます。ここぞで鳴るビブラスラップよ(くるりの公式インスタグラムでGRACEさんがこれを叩いている動画が見られるので覗いてみてください)。
フィドル調のヴァイオリンの動きの多いこと。おのれの足とおのれの足元の地面から展開される土着性と希望や未来を眺望して踊るよう。逸脱と革新、浮遊と帰結。極端な因果の同居を感じます。
ヴァースとコーラスのあいだで、プログラミングした感じのリズムトラックがバイテン(倍のテンポ)でせこせこと働きます。和声も低音位が順次進行でつながっていき、Ⅱm→Ⅴのモーションでコーラスへとリーチし、生ドラムの雄弁で力強い、大地も一緒に震えながら肩を組んで笑いあうみたいなコーラスの展開へとつながります。
間奏では移勢のタイミングがそれまでのコーラスとはちょっと変えてあるのですが、2/4拍子を挟んで後半に映るところでは少し通常のコーラスっぽい展開の導入部に相似しますがやはりまだ4度圏の舞いはつづき、道を一歩ずつ順調に逸れる、いえチャレンジをつづけていきます。そして元調の半音下のE♭メージャーあるいはD♯メージャーの響きにたどりつくと、あと一歩てをのばせ!といった感じにずりっと半音上がって元調のEメージャーに手が届きます。ドラマティック。崖からの転落を経て無傷で生還したみたいなアクロバットと、最後のにじりより(半音のずりあがり)による元調への帰結がニヤっとさせます。
“これはフィクションなんかじゃない”。転調した先の調:Aメージャーにおいて、ⅠとⅤを反復する、この世でもっともコンパクトでシンプルで説得力のあるミニマムなカデンツを反復しながら
“これはフィクションなんかじゃない”
と穏やかに唱えて、4拍目ウラでぱっと消えるように、わずかな残響を香らせて消える。
4か月連続リリースの果てに、何が見えるのか楽しみですし、私は私の放浪によって充足・幸福・好奇の挑戦を続けていきたいと勇気づけられます。ブラヴォー。

青沼詩郎
くるり 公式サイト>ワンダリング、くるり、シングル4ヶ月連続リリース決定! 第一弾は9月12日リリース「ワンダリング」。 全国ツアー「くるりツアー25/26 ~夢のさいはて~」開催決定! 「純情息子」最速先行チケット受付開始!、くるり新曲『ワンダリング』に寄せて
参考歌詞サイト AWA>ワンダリング
くるりの配信シングル『ワンダリング』(2025.9.12)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】放浪の4度圏 『ワンダリング (くるりの曲)』ピアノ弾き語り』)