まえがき

筆名によるユーミン(愛称で失礼します)の提供曲。編曲は細野晴臣さん、松任谷正隆さんにより、諸パートが機能しあってバンドの音になっていてシングル曲かつオリジナルアルバムに収録されていますが、後年のセルフカバーアルバム『SHONAN BOYS~For the young and the young-at-heart』(2005)にも収録されています。セルフカバーバージョンはアコギ、ピアノ、ボーカルのみで楽曲がもともと備える豊かなポテンシャルを引き出します。おふたりの字ハモしたりふとユニゾンになったりする歌唱のアレンジも素朴の音景のなかで際立ちます。

“たあいない夢なんかとっくに切り捨てたきみ”  “For myself For myself 幸せの形にこだわらずに 人は自分を生きてゆくのだから”(『あの頃のまま』より、作詞・作曲:呉田軽穂)

一瞬ごとを乗り越えてベストを尽くしてくれば、そのときのベストな形として現れるのが幸せかと考えさせる歌詞のラインが光ります。意図しない形になってしまっている部分があったとしても、それを受容し、幸せの形だとしたためて生きて行くのが賢明なのかもしれない……そう思うと、厳しい言葉のようにも温かい言葉のようにも思えるバランス感が鋭いです。

あの頃のまま ブレッド&バター 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:呉田軽穂。ブレッド&バターのシングル、アルバム『Late Late Summer』(1979)に収録。

ブレッド&バター あの頃のまま(アルバム『Late Late Summer』)を聴く

豊かな音数が機能しあい、緻密に組み合わさります。音楽的語彙の変幻自在ぶりに驚嘆。

広い音域をカバーするポテンシャルを有するピアノとは別にエレクトリックピアノもいるし、低域から高域までストリングスもいて箇所により露出を強めるパートがかわるがわる光ります。

フルートのピヨロロロ……というトリルのオブリガードは単純な音形のようで、高く滑空するトンビの悠然とした軌跡みたいです。

カポ……とウッドブロックが森の鳥みたく鳴き、チイィーンと僧侶の長いお遍路道のようなベルが澄んだ音色を吐息のように浮かべます。

ベースとドラムスは、曲の進行、構成に合わせて柔軟にパターンを変えます。本当に君は色んなカードを持っているね、と唸らせます。

コード進行はBパートに入ったところの低音保続が目を引きます。“去りゆく若い時間をひとり止めているようで”と歌う。ベースの保続にそんな歌詞の思いが宿るかのようです。無情に流れゆく、一方通行の若さに対抗して、せめてベース音くらいはとへばりつくみたいです。

“人生のひとふしまだ 卒業したくないぼくと たあいない夢なんかとっくに切り捨てたきみ For myself For myself 幸せの形にこだわらずに 人は自分を生きてゆくのだから”(『あの頃のまま』より、作詞・作曲:呉田軽穂)

すべてが計画した通りには運ばないから生きる意味があるし、人生は面白く、それを幸福ととらえて生きながらえるのに耐えるのです。そのつらみの共有、連帯感に寄せる慈愛が旅情とともににじむかのように、エンディングはフェイド・アウト。常に今のあなたの足元を舞台に、劇は無休で続きます。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ブレッド&バター

参考歌詞サイト 歌ネット>あの頃のまま

ブレッド&バター公式サイト | Bread & Butter Official Siteへのリンク

『あの頃のまま』を収録したアルバム『Late Late Summer』(1979)

『あの頃のまま』を収録したセルフカバーアルバム『SHONAN BOYS~For the young and the young-at-heart』(2005)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】自己受容と幸福『あの頃のまま(ブレッド&バターの曲)』ギター弾き語り』)