ヨソでいそしむパッパッパ
ほかの人と関係のある同志を描きます。不倫なのかなんなのか。毎回の逢瀬が初々しい、エキサイティングで刺激的なのは、相手がそれぞれ別にもいて深入りしないようにしているせいなのか。
“逢うたびいつも 違う口づけをして おどろきあう その気分 そうよ はじめての顔でおたがいに またも 燃えるの(『他人の関係』より、作詞:有馬三恵子)”
あるいは初めてのふりをする面構えをお互いにかむり、その都度逢瀬するから興奮するのであって、胸のうちでは「これこれ!」などとすでに知っているものの愛顧をしているのやら。表面で演じる道化、ピエロの所業です。
パパパパッパ……というバックグラウンドボーカルの言葉のない言葉が、誰にも見せないふたりの秘密からあえてカメラをそらす所作のように思えるところが余計にエロティック。情熱に昂る・燃えたぎる気持ち、興奮をあえて浮き彫りにするような、ささやくソフトな歌唱表現がかえってふたりの秘密にリアリティを与えます。
他人の関係 金井克子 曲の名義、発表の概要
作詞:有馬三恵子、作曲・編曲:川口真。金井克子のシングル、アルバム『他人の関係』(1973)収録。
金井克子 他人の関係(アルバム『他人の関係』収録)を聴く
燃え上がる情愛を描いているのに平静なのは、ヒミツだからなのです。なにもない、そしらぬふりをしているからなのです。だからこの平たい、他人さまの行き交う施設の切符きり、チケットもぎりのようにただただ事務を、軽作業を消化するかのようなトーンのボーカルなのです。
リードハボーカルにハーモニーづけはなく、ダブリングの描線が影武者みたいで不気味です。これも、ふたりが息をあわせて二人の関係を「他人です」たらしめているからなのでしょう。別に? な〜んにもないもんね。。そんなクールフェイスなのです。
ルパン三世とか、そんなような怪盗ものの劇伴音楽かよと思うようなこのフィール。左に、ビブラフォンとフルートのぴったりとしたユニゾン。フルートはアルトフルートでしょうか。声を沈没させて、低くうめくみたいな音色のフルートがまた関係をひた隠しにしているみたいで怪しいです。
おなじく左側にはりついているみたいなエレキギターのひっそり感。帽子を深くかぶって、視線を斜め下の地面に落とし、念仏を唱えて竿物の繊細な弦楽器をチョロチョロと環境に溶かしている路上ミュージシャンかよという撫でるようなニュアンス、音量感。
ドラムのトーンも丸く、太い。角がたたないようにしているんですね。カツっとしずかにリムを鳴らすプレイは寝ている子も起きません。
2コーラス目に入ってしばらくするとストリングスが弓を動かしはじめます。表面上ドライなヒミツの関係も、逢った時ばかりは湿り気を帯びていくのです。それまでは、減衰系の音でつづられるので前半と後半の聴き心地に飽きさせない変化が忍ばされています。でも環境のなかで聞き流してたらこんな変化は些事に思えます。通りすがる他人は誰も振り向かないように、穏便にことを変化させていくかのようです。
右側にラテンパーカスがカポ……とグラスに氷を投げるみたく環境になじむアクセントを添えていきます。シキ、シキ……と鳴る小物楽器はシェーカーなのかマラカスなのかカバサなのか。
トランペットの影も暗躍します。金管の音色に私は夕焼けや情熱、勇気などの観念を感じることが多いのですが、この楽曲で聴こえてくるトランペットの音色は闇の権化です。忍んでいる。おのれと直接の関係者の平和のためなら、秘密裏に耳障りでな不都合な正義をイレイスしてしまう地下の仕事人……そんな感じのトランペットが妖艶です。
ふたりの関係は誰も止めようがありません。だって他人様なんだから。関係ないんだもん。
青沼詩郎
参考Wikipedia>金井克子
金井克子『他人の関係』を収録した同名のアルバム(1973)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】ヨソでいそしむパッパッパ『他人の関係(金井克子の曲)』ギター弾き語り』)