好きさ 安全地帯 曲の名義、発表についての概要

作詞:松井五郎、作曲:玉置浩二。安全地帯のシングル、アルバム『安全地帯Ⅴ』(1986)に収録。調性耳コピメモ:in Fm(♭×4)、BPM=118程度、4/4拍子か。

安全地帯 好きさ(アルバム『ALL TIME BEST』収録)を聴く

「好き」はイノセントな、一方向のエネルギーです。愛しているともまた違います。また、「好きです」「好きなの」「好きだ」「好きだよ」「好き!」「好いとう」「好きじゃ」それぞれ違います。この曲は『好きさ』なのです。

このたったスリー・ストロークの単語、「Su Ki Sa」の抑揚を活かした音型で貫く情念がほとばしります。

強い拍にこの主題の「好きさ」のフレーズが発音点が当たっていないところが切なく儚いのです。3拍目のウラから音型が起こって、4拍目のウラから次の小節の頭にタイします。つまり弱起のフレーズですね。

安全地帯『好きさ』主題に相当するモチーフの採譜例

これが、強起のフレーズだったらだいぶ印象が違い、どこか平和ぼけして間が抜けてしまうに違いありません。はかなく、いつかなうともわからない不安や焦燥と抱き合わせの強い情念が着地点を求めてさまよい続ける、この楽曲独特の情動の慣性、衝動性はこの弱起のモチーフから湧き出る特長なのです。

そんな儚い情動に尾ひれをつけるようなピアノのサウンド。ボーカルやピアノにかかった、残響・こだまの音響的演出。背景にもやをかけ、未来を見通す視界をぼかすようなイケズなシンセのふわっとしたサウンド。それらに怒りをぶちまけ地団駄を踏むような、はっきりとしたビート感。

エンディングのエレキギターのリードプレイが、なおもやり場のない想いと着地点を求めてエネルギーを振りまき、己の軌道に火の粉を散らしながら明けることのない夜に沈んでいきます。

“好きさ しびれるほど 好きさ くやしいほど 思いつめれば 狂いそう 好きさ はなしたくない”(『好きさ』より、作詞:松井五郎)

「しびれる」「くやしい」「狂いそう」…好きの情動はまるでステータス異常です。健常・平静な状態を奪う、やっかい者ではありませんか。

しかし、好きの情動に自分からにじりよることなどできません。好きの情動はあなたの身に憑依し、あなたの身体を浸して、暴れるように副次効果を発動しまくるまるで悪魔だ。誰かエクソシストを呼んで来い!

“帰れない あなたの肌にも 夜がしのびこんで しかたない 別れ間際には 無傷じゃいられない 憎めない つめたいしぐさは 逢えないとつらくて やるせない あなたのその声 心がこわれそう”“好きさ”(『好きさ』より、作詞:松井五郎)

あなたの肌は白を想起させ、夜が闇の色に浸してしまうこのコントラストが高刺激。「~ない」を連ねて、好きの情動の悪魔性をいっそう際立たせます。好きの情動は何もかも奪う。「心がこわれそう」になる。いったい何をくれる? あなたの肌が快楽をくれ、その代償を差し出しているのでしょうか。この曲のこころの叫びに耳をそばだてるほどに、好きの情動は悪魔だと確信するのみです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>安全地帯Ⅴ

参考歌詞掲載サイト 歌ネット>好きさ

玉置浩二&安全地帯オフィシャルサイトへのリンク

『好きさ』を収録した安全地帯のアルバム『安全地帯Ⅴ』(1986)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『好きさ(安全地帯の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)