悠久な視野への祝福
ペンタトニックのメロディが時代もスタイルも地域もさまざまな垣根を越えてまたがり『花咲く旅路』の主題を表現します。またそこにフィットし寄り添う、透明さ、純朴さが原由子さんの歌唱の偉大さだとも同時に思います。
蛇腹のリード楽器、ピチピチとまたたくグロッケン、描線にコントラストを与えるピアノのラインとそのサウンド、クラシック名曲・ラヴェルのボレロを想起させるような雄大なスネアドラム。豊かなサウンドが悠久な視野を思わせます。
花咲く旅路 原由子 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:桑田佳祐。原由子のアルバム『MOTHER』(1991)に収録。調性メモ:in C。
原由子 花咲く旅路(アルバム『MOTHER』収録)を聴く
ピアノの音色がなんだかお琴みたいです。ミヤビなフィール。正座して聴きたくなります。
原さんのボーカルに透明感を与えるのはダブリングの描線。「ぅぃ〜〜」との発音にも聴こえる? バックグラウンドボーカルが神妙です。神通力が降りてきそう。
どむん……と、和太鼓のようなサウンドが拍子をとります。邦楽的なビート感を与える要因でしょう。
ベースのストロークがおおらかで、その点もこの楽曲に雄大な視野を与えています。
右のほうにマンドリンの複弦のトレモロ。木々のあいだを交う鳥のような風情があります。
右のマンドリンと対になるのが左のアコースティックギターでしょう。からっとした音色で、きわめて明瞭な音色が左に限界まで定位がふってある感じで、左右の領域をこえて頭の後ろまで音があるような気分になります。
和音のふとしたシックスの音色にはらっとするのです。不安や焦燥もそのものとして受け入れ、包含して生きていく決意を思わせます。
“喜びが川となり 悲しみは虹を呼ぶ 道無きぞ この旅だけど でもこんなに上手に歩いてる 稲穂の先が いつしか垂れコウベ 咲く紫は旅路を彩どる”
(『花咲く旅路』より、作詞:桑田佳祐)
悲しみが涙の川になって、喜びが虹を呼んでも良さそうなものですが実際の歌詞はこの反対を行きます。喜びにはそもそも悲しみが包含されているし、悲しみはそもそも喜びの存在に依拠している……そんな真理を想起させる描写です。悲しみと喜びがいくら渦巻いても、己を肯定的に解釈することばかりは、あなた自身のみにできる最後のカタルシスでしょう。
青沼詩郎
『花咲く旅路』を収録した原由子のアルバム『MOTHER』(1991)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】悠久な視野への祝福『花咲く旅路(原由子の曲)』ピアノ弾き語りとハーモニカ』)