人生を共にする相棒との時間の移ろい
シンプルなサウンドに音色のよさ、歌唱のよさ、曲のよさが映えます。
スリーフィンガー奏法でしょうか、アルペジオのギターの伴奏で聴かせます。フォーキーなスタイルですが、コードに低音の順次進行がみられたり、メロディの豊かさはただペンタトニックを用いただけの民謡調のメロディとはやはり一線を画すものがあり、シンガーソングライターとしてのジョン・デンバーの愛される歌を書く確かな技術を感じます。
この古いギター、と直訳してしまえる主題ですが、1本のギターと主人公が人生をともにしていく時間的な幅にせつなさと慈しみ深さがこみあげます。人間とものごとの時間の幅、移ろいを描く普遍的な魅力が同時代の日本のフォーク系のシンガーやソングライターにも影響を与えた点なのではないかと勝手ながら想像します。天地真理さんなどがこの曲を日本語で歌ったこともあるようです。的外れかも分かりませんが、例えば「大きな古時計」なども人間の生活に寄り添う日用雑貨や家具・あるいは仕事の相棒たる道具と人間の時間の幅を描く名作として関連づけることもできるのではないでしょうか。
こうした楽曲の骨子のそもそもの普遍性・大衆性こそがアレンジのテクスチャや物量の向こう側にある魅力で、こういう楽曲であらばたとえばの話ですがOasisのようなオープンなギターやドラムのサウンドと存在感・エッジのあるリードボーカルで実演してもきっと輝かしい魅力を増幅すると思うのです。
This Old Guitar John Denver 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:John Denver。John Denverのアルバム『Back Home Again』(1974)に収録。
John Denver This Old Guitar(アルバム『Back Home Again』収録)を聴く
乾いたギターの音が時間の引き締めを思わせます。古いギターはこうでなくちゃ……カラっとしているのですが非常に豊かなサウンドです。弦がリリースされる瞬間のごくわずかなアタックの質感がやさしい。一糸乱れぬアルペジオはやわらかな雨みたくも思えます。
足か何かでパタ、パタ……あるいはトツ、トツ……とリズムをとっているような音が入っています。4分音符です。おおらかな分割の自然なグルーヴが優しい。このおおらかな4分打ちを、アルペジオのギターが柔和に16分割で敷き詰めるのです。ごく自然ですが、驚くほど精密な演奏ですよ。エンディングのときのボーカルフェイク、ミックスボイスに突入するかどうかという繊細さで上のほうの声域にかるくタッチする歌唱が絶妙です。
愛の歌をうたうとき。さびしい夜。愛する人の目が見開かれるとき。いつも、この古いギターがかたわらにある、人生を共にしてくれている恵への感謝と慈しみが尊いです。
きみのために歌うよ、というとき……最後は、いつもずっとそばにいてくれた「この古いギター」のために歌っているのかもしれません。
楽器はいつも、表現者の思想や感情を表現するための媒体であり道具です。楽器という媒体や道具を通って、使命がまっとうされ、目的が達成されるがために、楽器が直接愛をうたってもらう主たる対象となる、愛を享受する目的先となる機会はいつも後回しにされがち。だから、なんだろう……たまにはきみ(ギター)のためだけに歌うよ、という感謝の祭日があってもいいじゃないかと思うのです。そう考えると、いっそうこの『This Old Guitar』の思念の愛らしさが沁み入りませんか。
青沼詩郎
参考Wikipedia>Back Home Again (John Denver album)
参考歌詞サイト Genius>This Old Guitar
The official site of John Denverへのリンク
『This Old Guitar』を収録したJohn Denverのアルバム『Back Home Again』(1974)