まえがき
この曲を検索しようとすると、曲名が似ている『すみれ色の涙』ばかりがヒットします。
やや検索を惑わしがちな理由があるとしたら、もともとの曲名が違うという点にあるかもしれません。尾藤イサオさんへの提供曲で、曲名が『泣かずに笑って』でした。ジャッキー吉川とブルー・コメッツバージョンにあたる『すみれ色の瞳』はセルフカバーといってよさそうです。作曲はブルコメメンバーでオルガン・ピアノ担当の小田啓義さん。
ブルコメの『すみれ色の瞳』のサウンドにはハープシコード(チェンバロ)が含まれています。おまけに、低めのテンションの妖しげなフルートも含まれており、私はこのサウンドに聞き覚えが……と思い出すのがレフト・バンクの『いとしのルネ』(1966)です。バロック・ポップ、バッハ・ロックなどと呼ばれたジャンルを語るうえで挙がる名前が彼らだと思いますが、ハープシコード、それから低いフルートを取り入れたサウンドが特徴で、おまけにその特徴はママス&パパスの『夢のカリフォルニア』のサウンドの特徴からアイディアを得たものだといいます。私はジャッキー吉川とブルー・コメッツ『すみれ色の瞳』、レフト・バンクの『いとしのルネ』、ママス&パパス『夢のカリフォルニア』は3曲セットで記憶の引き出しにまとめて置くことになりました。
献身的すぎる歌詞は情念が深く、命つきたあとにまでその尾をたなびかせます。マイナー調の響きと歌詞が相まって、私の思うグループ・サウンズの極端な特長がよくうかがえて好きな曲です。ブルコメの歌唱は鼻息で消し飛んでしまいそうなくらいにか細いささやきから、魂が雄叫びをあげるような強いダイナミクスまで振れ幅があり聴き応えがあります。
すみれ色の瞳 ジャッキー吉川とブルー・コメッツ 曲の名義、発表の概要
作詞:片桐和子、作曲・編曲:小田啓義。ブルー・コメッツがバッキングを務めた尾藤イサオのアルバム『ワーク・ソング』(1966)に収録された『泣かずに笑って』と異名同曲。ジャッキー吉川とブルー・コメッツのアルバム『ブルー・コメッツ=オリジナル・ヒット第2集』(1967)に収録。
ジャッキー吉川とブルー・コメッツ すみれ色の瞳(アルバム『ブルー・コメッツ=オリジナル・ヒット第2集』収録)を聴く
か細いか細いボーカルトラックはダブルになっています。まるで影の表現。想いの本体のうしろにできる名残のような思念をおもわせるボーカルトラックのサウンド、歌唱が儚いです。
右にボウンとベーストラックが振ってありピッキングのニュアンスが出ています。左には対になるギタートラックが振ってある。ときおり、リードボーカルとギターとベースだけになります。殺風景な場所に取り残されてしまった孤独感のようなものを音楽の意匠が表現します。
左側トラックにはフルートが振ってあります。低い位置でカウンターメロディのようなものを入れる役割を担いますが、後半に差し掛かって歌詞が「たとえ死んでも……」となるところでボーカルのニュアンスが一気に激しくなり、フルートの音域もポンと高く上がります。死んでしまって、星になって高いところに行ったニュアンスを音楽の意匠面でも感じさせます。
ハープシコード(チェンバロ)の音色が素早い刺繍音で装飾を入れ、古典音楽らしい奏法で情念が時空を超えるかのような悠然としたラインを楽曲に沿わせます。ウラのほうでメロトロンのストリングスでも鳴っているのか?!と思ったらオルガンの保続音でしょうか。ものかげで何かがざわめいているような微かすぎる音量感にちょっとゾワっとしてしまうのです。あなたを見守る視線かな。ホラーなフィールと紙一重です。純愛であってくれ。
青沼詩郎
『すみれ色の瞳』を収録したジャッキー吉川とブルー・コメッツのアルバム『ブルー・コメッツ=オリジナル・ヒット第2集』(1967)
『泣かずに笑って』を収録した尾藤イサオのアルバム『ワーク・ソング』(1966)