あどけない構文が尊い

「見てて」「見ててよ」と、あどけないあどけなさを思わせる呼びかけ、言葉づかいを交えて「ゆう子」像を描きます。ゆう子自身を主人公に、ゆう子の視点で書かれた楽曲だと思って良さそうです。

ゆう子は何歳くらいなのでしょうか。となりのお兄さんを恋人扱いしたり、グライダーが飛ぶ理由をふれまわるのに上昇気流という単語を用いているところなどから6歳前後くらいが妥当かとひとまずは想像します。あるいは幼い心は誰しものなかに永遠に居座るものですから、鑑賞者のなかにゆう子(のような人格)がいると解釈するのも良さそうです。

生演奏の質感、その相互の機能のフィールが良く今の私が聴いても楽しめる録音作品で、演奏は加藤ヒロシとそのグループが担当。編曲の加藤ヒロシさんはGS(グループ・サウンズ)出身といってもよさそうで、ザ・リンド&リンダースのメンバー(Gt)でした。また『ゆう子のグライダー』を収録したアルバム『神崎みゆき ファースト・アルバム』演奏メンバーには近田春夫さんも参加されているといいます。

『ゆう子のグライダー』はその字余りなような、それでいてうまいこと着地してしまうような、まるで幼い子が大人をほんろうするが最後は安全に無事に場が収まるような、独特の揺らぎあるソングライティングがえもいわれぬ魅力になっています。ひとつひとつの単語や文章の連なりが醸す、大小のリズムや緩急の揺らぎが天真爛漫なのです。「びゅんびゅん」のオノマトペが光ります。

神崎みゆき ゆう子のグライダー 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:神崎みゆき。神崎みゆきのアルバム『神崎みゆき ファースト・アルバム』(1973)に収録。

神崎みゆき ゆう子のグライダー(『神崎みゆき ファースト・アルバム』収録)を聴く

太陽の前を横切ってグライダーがぎらつくみたいに、あどけなさと力強さの両方を感じる神崎みゆきさんの歌唱のキャラクターがやはり垢がなくって純真で素敵です。

子供の声のシンガロング。それからマンドリンのトレモロが行き交います。録音作品としてのサウンドを追求する姿勢が評価できます。ガヤも良いですね。女性だか子供だかの声質によるにぎわいや談笑の声がいいタイミングで、いい質量感で含められています。

左右にギターがひらきます。右のほうが明るくて、歪みを感じるトーン。左のほうがカドの落ちたトーンで、リズムをストラミングで担います。

ベースの真っ直ぐなプレイが緩急あって快活なリズムをなします。ドラムスにしゅわしゅわとフェイズのような効果がかかっています。これが、主たるモチーフのグライダーが風を切るイメージの演出に与しています。

エンディングで、これまでいなかったピアノが右トラックにグリッサンドで入ってきます。それからトレモロのマンドリン、神崎さんのプレイと思われるハーモニカが組み合わさって、グライダーの滑空をみんなでお祝いしているような様相で収束していきます。

小学生(低学年)の日記とも見紛うような言葉づかい。シンプルでフレンドリーなリズム。Cメージャーの純白な響き。1973年の作品ですが、こういう音景に通ずる純真無垢さをあらゆる人が胸に宿して生きているはずです。日々の忙しさに息苦しくなったら、いつでもここへ来て深呼吸をはかりたい。そのお共にしたいと思える楽曲・サウンドがここにあります。

グライダーの飛翔とスピード、動的でかつクリーンで希望的なモチーフのイメージも手伝って、素朴な魅力を増します。

青沼詩郎

参考Wikipedia>神崎みゆき ファースト・アルバムザ・リンド&リンダース

参考サイト>芽瑠璃堂>神崎みゆき ファースト・アルバム +2

『ゆう子のグライダー』を収録した『神崎みゆき ファースト・アルバム』(1973)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】風に乗ってびゅんびゅん『ゆう子のグライダー(神崎みゆきの曲)』ギター弾き語りとハーモニカ』)