中央値をくれるパフォーマンス カレーライスといったらあのカレーライスなんだよ

予期したものが予期したとおりにそこに来てくれる、いわば期待通りにものごとが運んでくれる快感があると思います。形式や様式、構造の美しさの一因は予定調和のおかげなのかもしれません。

あるいは予定調和が匂ったときに、それを裏切ってくれる期待のとおりに裏切ってくれるという、ネガポジ反転させた予定調和みたいなものも、大衆音楽の進化の果てにみる混然とした特徴や作法の側面かもしれません。

フランク永井さんのベストアルバムに収録されたいくつかの楽曲を鑑賞しているときに、「ここでこういう風にオチがつくと収まりが良い」と思うとおりに音楽や歌詞のフレーズが着地することしばしば。また、超現実的なまでに巨大化した山羊がブフォォ……!と唸り声をあげているかのような迫力ある艶やかな低いサックスの音色などもまた、こうした大衆音楽(……歌謡曲といえようか)の様式の定型、一要素としてさもありなん。

私にフランク永井さんのレパートリーへ関心を持つきっかけをくれたのは、細野晴臣さんのアルバム『HoSoNoVa』(2011)に収録された『ラモナ』でした。フランク永井さんも同曲をカバーしていたためです。フランク永井さんはジャズをカバーしたレパートリーもたくさん残しています。

『おまえに』を作曲している吉田正さんの作曲作品でほかのフランク永井さんのレパートリーには『有楽町で逢いましょう』『夜霧の第二国道』などもあります。ここにこの主題たるフレーズが来て、オチがついてほしい!と私が思うとおりにオチがつく楽曲の進行・構成・構造に、大衆娯楽としての歌謡曲の一様式の定型を見ます。大衆食堂で「カレーライス」を注文したら、おおよそ想像した通りの「The・これ」的なカレーライスが出てくるような期待通りのオチなのです。

おまえに フランク永井 曲の名義、発表の概要

作詞:岩谷時子、作曲:吉田正。フランク永井のシングル(1972)。『フランク永井ベスト』(2005)で聴くことができる。

フランク永井 おまえに(『フランク永井 ベスト』収録)を聴く

声帯から直接涙がにじみそうな情念を歌声で感じさせる技量たるや。ビブラートの振幅が強烈ですがなおかつスムースです。ろうそくの炎が風にそよそとと靡くような歌声ですね。孤独の美しさを思わせるからこそ、主題の「おまえに」が強調されます。

右側でアルペジオするアコースティックギターが伴奏を牽引します。間奏ではリードプレイし、また伴奏にもどる的確さ。

ストリングス、それから女声のバックグラウンドが非常に精巧な音像で、最小限の動きです。左のほうにオカズを入れるトランペットがときおりうかがえます。ここまでソフトな音色が出せるのかと、私を驚嘆させるシルキーな音色です。まるでブルースだね。

ドラムのダイナミクスのコンパクトさも驚嘆です。「わりばしで叩いているみたい」なんて形容ですらまだ足りない。爪楊枝で叩いてんのかな? 絵筆で触ってるだけなのかな? というくらいにコンパクトなドラム。アコギのアルペジオに「チチチチ……」とハイハットが高域の輝きを添えます。

豊かな音数ですが動きがタイトなので、低く艶めくフランク永井さんの歌唱が映えます。フランク永井さんの他の楽曲では私に概して強い印象を残すのがサックスの音色ですが、この楽曲『おまえに』にはサックスを入れないで良いでしょう、期待通りの正解だと思います。

青沼詩郎

参考Wikipedia>おまえにフランク永井

参考歌詞サイト 歌ネット>おまえに

『おまえに』を収録した『フランク永井 ベスト』(2005)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】中央値をくれるパフォーマンス『おまえに(フランク永井の曲)』ギター弾き語り』)