好きさ 好きさ 好きさ
I love youと単刀直入なフレーズを3度繰り返し、すかさずyes I doと続けます。リスナーにおける情報処理に要する負担をここまで減らしてくれるのかというくらいにシンプルでいながら、強烈なインパクトをくれる楽曲。日本のグループサウンズバンド、ザ・カーナビーツがカバー曲に採用するのもわかりみで、この情報処理に要するプロセスの可省略性が、日本のグループサウンズバンドの魅力の志と同じ方向を行くものであったであろうことを思います。
日本語に翻訳されるとき、この最も印象的で単刀直入な歌い出しは「好きさ」「好きさ」「好きさ」とされました。意味の捻じ曲がりが極端に少ないです。もちろん、好意と愛もいくらかニュアンスに幅のある観念でもあるでしょう。日本語の訳詞を担当したのは漣健児さんです。
オリジナルのゾンビーズのメンバー、作曲者のクリス・ホワイトはベーシストでもあるのですね。楽曲の骨子の面から確かな作品へアプローチする能力の高さと同時に、バンドのサウンドへのアプローチ、表面の質感への多彩な工夫の面でもあらためて尊敬します。
I Love You The Zombies 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Chris White。The Zombiesのシングル『Whenever You’re Ready』(1965)のB面曲。
The Zombies I Love You(配信アルバム『The Original Studio Recordings Vol.3』収録)を聴く
ボーカルのポシションもテンションも高いです。ハードロックとかメタルの唱法の源流がここにあるのではないかと思わせる。ゾンビーズのアイデンティティのひとつでしょう。
ズウンと深く、淀んだ闇のようなマイナーコードの響き。オープニングから、歌い出しの「I love you」に入る瞬間、別テイクのテープをつないだみたいな編集点が感じられます。雑踏のなかでイヤフォンで適当に聴いていたときには感じませんでしたが、静かな家でヘッドフォンで聴くと、録音や編集の面での時代相応の粗っぽい魅力も感じます。
ボーカルにかかった深いこだまが良いですね。エコーというのか、ショートディレイというのか。ハーモニーのボーカルトラックがファルセットぽい声色のニュアンスが、「I love you」の観念の情熱の裏面の危うさや儚さを演出するかのようです。
コーラス(サビ)のおわり付近で、バスドラがストロークの頻度を増して、ベースのごもごもとしたサウンドと相まってわさわさと焦燥感を演出します。
間奏のソロはエレクトリックピアノでしょうか。明瞭で鋭さのある音色で、ホワンと漂うようなマイルドなエレピの音色とは異なるキャラクターで、クラビネットにも似たような激しさを感じるのはプレイのせいでしょうか。演奏面での動きの多さが妖艶です。
ときおりオルガンがピーピーとチープなチューンで合いの手しますが、ところにより低めの音域でホワーンと脇役に徹していたりしていい仕事だなと思います。
ベランとグラマラスに低い音域でベースに加わっているのはアコースティックピアノの音色なのか、間奏でソロをするエレピと同一の個体なのか分かりませんが歌詞「I love you」と歌う瞬間を豪快に引き立てるサウンドです。
妖しく、深く、暗く澱んだような楽曲のキャラクターとバランスをとるのはリードボーカルの華ももちろんですが、スネアのサウンドがパカンとさばけているのもポイントだと思います。かろやかさとアクセントの爽快感があり、全体の聴き心地のバランスを良好にしています。
ザ・カーナビーツの好きさ好きさ好きさ(配信『コンプリート・シングルス』収録)を聴く
私はカーナビーツを配信で聴いてこの楽曲を認知しました。カバーなのだと知って、元をたどる形でゾンビーズのオリジナルを聴きました。
全体にファットな音です。右にドラムが寄っていて左にエレキ。前面にリードボーカルで、奥に向かってバックグラウンドのボーカルが立体感を演出します。間奏はリズミックなエレキギターですね。
リードボーカルの悲痛で振れ幅の大きいアティテュードが中毒的な魅力を放っています。
ドラムの手捌きが流麗ですね。しれっとタンバリンなども入っていますが耳あたりが優しいです。
青沼詩郎
参考Wikipedia>好きさ好きさ好きさ、ゾンビーズ、ザ・カーナビーツ
The Zombies Official Websiteへのリンク
バージョンによってはボーナストラックに『I Love You』が収録されている、The Zombiesのファースト・アルバム『Being Here』(1965)
『I Love You』を収録したThe Zombiesの編集盤『IN STEREO』(2013)
『好きさ好きさ好きさ』を収録した『ザ・カーナビーツ・ファースト・アルバム』(1968)