悲しみの黒へのまなざし
ビートルズの元メンバー、スチュアート・サトクリフの死がありました。この曲が描くのはそのスチュアートと、その恋人であったアストリッド・キルヒャーを描いているとする説があります(アストリッド・キルヒャーはアルバム『Beatles for Sale』のジャケットでメンバーが着けているマフラーを編んだ人だそうです)。
不動の悲しみの事実が楽曲の誕生動機に通底していたとしても、それを沈痛にならずにからっとした明るく輝かしいトーンで歌い上げているところがこの楽曲が慈しみ深く潔く好印象なところでもあります。
ジョンとポールそれぞれの得意な音域で歌い分けるヴァースとミドルエイト、あるいはユニゾンはビートルズサウンドの特長として永遠の語り種でしょう。
悲しみに沈む誰かに積極的な働きかけをできなかったとしても、まなざしをやることが悲しみを分け合うことにもなるでしょう。
Baby’s in Black The Beatles 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Lennon-McCartney。The Beatlesのアルバム『Beatles for Sale』(1964)に収録。
The Beatles Baby’s in Blackを聴く
ハモりっぱなしですね。ダブルになっている部分もあるかと思っていましたが、部分的にジョンの声がダブルになっているみたいで、ポールの声はずーっとハーモニーを歌っています。
終止、あなたとわたしの悲しみは完全に一致することはない。それぞれ独自のもので、交わる(重なる)ことはない。けれど、あなたとわたしで、共有する事実は存在するのです。二人のハーモニーが、そんな楽曲の表層が描く演出の向こうを思わせます。
左側にドラム、ベース、ギターの定位が寄っています。アコギの芯のある鳴り、それからエレキのリズムも感じます。右に入ってくるエレキのトラックもあります。ジョンの声が右寄りで、ポールの声が左寄りでしょうか。ふたりの線の聞き分けがしやすいが、ハーモニー、調和も感じられるバランスが良好です。
イントロのごく短いギターフレーズが印象づけます。太く温度のある一瞬。
しゃりしゃりとタンバリンが鳴る瞬間もあります。ドラムが響きを抑えてデッドなフレーズを叩く瞬間もある。ハチロク系のビートは単調になりがちですが楽曲のなかで諸パートの工夫やトラックの出入りで起伏が演出されており録音作品としても良質です、楽曲の良さも然り。
参考歌詞サイト Musixmatch>Baby’s in Black
ずーっとハーモニーしている、つまりコーラスしている感じです。上記歌詞サイトなどみると、いきなり歌い出しのところを「Chorus」としている。そしてそれにつづく部分がVerseとされています。そしてポールのパートが一番高くなるところはPre-Chorusとされています。なるほどそういう解釈もあるのか。
青沼詩郎
参考Wikipedia>ベイビーズ・イン・ブラック、ビートルズ・フォー・セール
ザ・ビートルズ | The Beatles ユニバーサルミュージックサイトへのリンク
『Baby’s in Black』を収録したThe Beatlesのアルバム『Beatles for Sale』(1964)
参考書
ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド (中公文庫、2015年)