きみに会うまでにヘトヘト
高い階層に住んでいる意中の相手のもとにたどりつくためにエレベーターに乗って……とするはずが、エレベーターが壊れているので階段で行くしかありません。ワンフロア、トゥー・フロア……と登っていくうちにヘトヘト。彼女どころじゃないしロックどころじゃない……挙げ句の果てには僕の死体が階段の手すりに垂れ下がる末路になるかもしれないぜ……などという過激なオチまでつきます。
カウントアップする歌詞、ボーカルフレーズが非常にリズミカルで快感があります。コンパクトなサイズのなかに刺激と病みつき要素のつまったロックンロールの始祖鳥のようなこのレパートリーは、ジョン・レノンとポール・マッカートニーの初めての出会いのエピソードのかたわらに名前が上がることもあるそうです。
Twenty Flight Rock Eddie Cochran 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Eddie Cochran、Ned Fairchild。Eddie Cochranのシングル(1957)。映画『The Girl Can’t Help It』(1956)に使われた。
Eddie Cochran Twenty Flight Rockを聴く
はやる気持ちが体をつきうごかし、階段をかけあがり、ハァ、ハァ、ゼィ、ゼィ……まだか?カノジョのいるフロアはまだなのか……! という緊迫感がバンドの急きまくるテンポから伝わります。コーラスのところですんごく速くなっていくように感じます。このバンドのテンポの変化が、主人公の体感や生理状態を想起させるのです。
少ししゃがれたような味のあるエディ・コクランのボーカル。腰の軽い、お手のものといったボーカルが非常にリズミカル。
1拍ごとが3分割されたようなシャッフル感、ハネたフィールがあります。ロックンロールはこうでなくちゃねと思います。この緊迫感のあるテンポで、原語の英語での歌唱を真似しようすると小ジャパニーズの私には小1時間程度では難しかったです。ロックンロールって、こうした、言葉のリズムがさしせまる緊張感に真髄があり、そこが麻薬的な魅力そのものなのだと、この楽曲を聴いていると思い知ります。
一体になって、息を合わせて加速するバンドのグルーヴが素晴らしい。
ギターはしゃらしゃらとしたサウンドのアコギと、軽いひずみのクランチぃなエレキの両方が使われているのかな? エレキの表層の質感の少し奥にアコギがしゃらしゃら鳴っているみたいに感じます。
いずれにしても軽いサウンドの秘訣はひとつ、ドラムスがシンバル類を使っていないことにもありそうです。カチカチカチ……と、本来ならクローズドハイハットで表現しても良さそうな分割はスネアのリムの部分のみを叩いて出している音でしょうか。シンバルがあるとバシャンバシャンと倍音がうるさくなり、この楽曲の持つ加速する陶酔感を表現するのにサウンドの横幅が効き過ぎて邪魔になる可能性があります。
ベースのストロークは非常に的確で緻密で、バンドのビートの中心点をピタリと針のような鋭さで射抜いていきますがそのサウンド自体はまるみがあり暖か。コントラバスのようなアコースティックベースなのでしょうか。
この楽曲のハァハァゼイゼイと心拍が上がっていくようなスピード感のまま、エディ・コクランは短く濃ゆい生涯を遂げます。センセーションですね。
青沼詩郎
参考Wikipedia>Twenty Flight Rock、エディ・コクラン
参考歌詞サイト Genius>Twenty Flight Rock
Eddie Cochranの『Twenty Flight Rock』収録盤(2011)