学習と応用・展開の真理

いってみれば、人間の学習能力はツギハギなわけです。出会うもの目にするもの、感性、感覚器官で知覚するすべてのものごとをストックしたり忘れたりしながら、学習、記憶したこと、経験をもとに磨き上げたことをツギハギしておのれの身のふりを決めて発露していくわけです。そんな意味で、本曲『ツギハギブギウギ』は人間の真理をついていると思えるのですが、その質感や工夫された言葉は楽しく、おのれの悲哀を笑うようなエネルギーに満ちたエンターテイメントとして昇華されており好感です。

ロックンロールもブギウギも、人間が残してきたツギハギです。それまでに存在したものにふれ、己のなかにとりいれ、己のなかの別の素材とカクテル(ツギハギ)してその時代その瞬間の1枚絵として出力する行為にあたります。

シングルバージョンの『ツギハギブギウギ』はエレクトリックギターのアグレッシブな印象が魅力でドライブ感があります。アルバムに収められた’97バージョンは12弦のアコースティックギターのサウンド、その質感が楽曲に土着の匂いをもたらしていて、楽曲のもともとの活気ある曲想は共通していながらもそれぞれに異なる聴き味があり妙です。

ミラッキさん著書『90年代J-POP なぜあの名曲は「2位」だったのか』(2025)で紹介されているのが『ツギハギブギウギ』を鑑賞するきっかけをくれました。ウルフルズのことは私なりに「好き」「ファン」のつもりでこれまで来ていたのですが「こんな楽曲があったのだ」としみじみ。まだまだ浅かった私。しかし今の私にだからこそ気づける『ツギハギブギウギ』の大きな魅力を確かに知覚しました。ポジティブでエネルギッシュなブルース(悲哀)なのです、私にとってのウルフルズは。

ツギハギブギウギ ウルフルズ 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:トータス松本。ウルフルズのシングル『ブギウギ ’96』(1996)に収録。アルバム『Let’s Go』(1997)に『ツギハギブギウギ ’97』としてバージョン違いを収録。

ウルフルズ ツギハギブギウギ(『赤盤だぜ!!』収録のシングル・バージョン)を聴く

ボーカルの押韻がリズミカル。これはロックンロールだ。血が流れ、遺伝子が発露しています。

エレキギターのじゃみじゃみっとした質感がドライブ感をリードしますが、ベースのまっしぐらな音の連なり、ニュアンスがこのドライブ感の黒幕だと感じます。ドラムスのプレイももちろん、軽快なテンポにおいて非常に軽やかで達者です。キックがいともたやすくバンドを運んでいきます。ドラムスの語彙も豊かで、途中で右手の刻みをフロアタムに切り替えたり……ボーカル「やばい」「まずい」……という中間のところではスネアの嵐が吹きすさびます。

3本くらいのエレキギターがすみわけていますね。左に恒常的なリズムの分割役のエレキ。右にメリハリ、休符の効いたエレキがアクセントします。まんなかあたりに、リードボーカルとシンクロするエレキギターがあらわれます。

バックグラウンドボーカル、というには目立っている、背景としてではなくあくまで対等なバンドメンバーとしてのガヤボーカルが私をニンマリさせます。ツギハギ〜と和声音を重ねていく。これぞウルフルズの語彙です。「パンツ」が元気すぎ。「あいすいません」はジョン・レノンからのバトンでしょう。

ウルフルズ ツギハギブギウギ(『Let’s Go』収録のアルバム・バージョン)を聴く

12弦ギターのサウンドをアクセントの主導に用い、空間に余裕があります。アコースティックなフィールがありますが、あくまでバンドとしての満たされた充実したサウンドでもあります。左、右とギロみたいなギチギチっと聴こえるサウンドのパーカッションが彩ります。リズムとコードをアコギが厚くします。

間奏のエレキソロの語彙にけっこう違いがありますね。ドンドンドンドン……とドラムが字の通り、鼓舞します。「この気持ち わかっておくれよ」でチャチャっ……とクラップ。アコースティックな質感に、楽器、声、人間の手といった肉体のテクスチャが映ります。ツギハギという主題の悲哀がより克明に見える感じがするのがアルバムバージョンの魅力です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ブギウギ’96Let’s Go (ウルフルズのアルバム)

参考歌詞サイト 歌ネット>ツギハギブギウギ

ウルフルズ オフィシャルサイト

シングルバージョンの『ツギハギブギウギ』を収録したウルフルズのシングル『ブギウギ ’96』(1996)

『ツギハギブギウギ ’97』(アルバムバージョンのツギハギブギウギ)を収録したウルフルズのアルバム『Let’s Go』(1997)

シングルバージョンの『ツギハギブギウギ』を収録したウルフルズのベスト『赤盤だぜ!!』(2014)

参考書

90年代J-POP なぜあの名曲は「2位」だったのか (ホーム社、2025年、著:ミラッキ)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】学習と応用・展開の真理『ツギハギブギウギ(ウルフルズの曲)』ギター弾き語りとハーモニカ』)