誰が売るリンゴ

引っかかりのある歌詞のオン・パレードです。

”窓の外ではリンゴ売り”……リンゴ売りって、いるのでしょうか。ある時代のある地域にはリンゴ売りは身近な存在である……と仮定して、そんな事実や史実が古今東西のどこかにあったかもしれないことはもちろん否定できたものではありません。それにしたって、リンゴ売りに私はみじんもリアルを感じられないのです。実在のリンゴ生産者さんや青果店関係の方々、気を悪くされたらごめんなさい。あなたたちのことじゃないんです。

それこそ、私の住んでいる町まで、「リンゴいらんかね」などと言って回るのかどうか知りませんが、あたりまえにごくありふれた日常としてリンゴ売りがやってきて、私はその気とそのためのお金さえあればリンゴ売りからリンゴをさも当然のように買うことができるか? 私の今いる現実世界はそんな線か? といわれれば、断じて違います。私の家の近くや、私の行動圏に、ありふれた存在としてのリンゴ売りはいない、存在しないのです。ここで私がいうリンゴ売りは当然、スーパーマーケットなどとは違います。リンゴを売っている……つまり、数多の種類の商品を扱い、そのなかにリンゴも含まれているという商態のことではないんです。純然たるリンゴ売りが、それも店や農園や直売所を構えるのではなくて、その身ひとつかせいぜいリヤカーを引くくらいの身なりで向こうからこちらを訪ねて売りに来たり、あるいは路上の一角に流れもの、さすらい人として私の生活圏に現れることがないという話。

リンゴ売りのくだりひとつでこれだけ私を夢中にさせる魔性の作詞は、まだまだこれでごく一部、冒頭付近の一縷にすぎません。

イントロからアグレッシブなリフレインのサウンドはクラヴィネットと、エレキギターなども重なっているのかどうか、ざりざりっとしたささくれたような質感。

井上陽水『氷の世界』特徴的なリフレインの採譜例。居心地の悪い部屋で窮屈な思いをしているみたいに、ギスギスした音色とカクカクしたリズムが楽曲の強いアイデンティティになっています。

現実感のない歌詞のシュールな世界を、荘厳なバックグラウンドがあの世に送るみたいです。さまざま、私のツッコミ心をくすぐっては、コーラスの結びとなるフレーズは共通で“毎日 吹雪 吹雪 氷の世界”です。私の理性の視界をホワイトアウトさせてしまう、氷の世界よ。もう現実なんてどうでもよし……そんな気にさせます。危ない魅力です。

引っかかりのある歌詞のオン・パレードです。

”窓の外ではリンゴ売り”……リンゴ売りって、いるのでしょうか。ある時代のある地域にはリンゴ売りは身近な存在である……と仮定して、そんな事実や史実が古今東西のどこかにあったかもしれないことはもちろん否定できたものではありません。それにしたって、リンゴ売りに私はみじんもリアルを感じられないのです。実在のリンゴ生産者さんや青果店関係の方々、気を悪くされたらごめんなさい。あなたたちのことじゃないんです。

それこそ、私の住んでいる町まで、「リンゴいらんかね」などと言って回るのかどうか知りませんが、あたりまえにごくありふれた日常としてリンゴ売りがやってきて、私はその気とそのためのお金さえあればリンゴ売りからリンゴをさも当然のように買うことができるか? 私の今いる現実世界はそんな線か? といわれれば、断じて違います。私の家の近くや、私の行動圏に、ありふれた存在としてのリンゴ売りはいない、存在しないのです。ここで私がいうリンゴ売りは当然、スーパーマーケットなどとは違います。リンゴを売っている……つまり、数多の種類の商品を扱い、そのなかにリンゴも含まれているという商態のことではないんです。純然たるリンゴ売りが、それも店や農園や直売所を構えるのではなくて、その身ひとつかせいぜいリヤカーを引くくらいの身なりで向こうからこちらを訪ねて売りに来たり、あるいは路上の一角に流れもの、さすらい人として私の生活圏に現れることがないという話。

リンゴ売りのくだりひとつでこれだけ私を夢中にさせる魔性の作詞は、まだまだこれでごく一部、冒頭付近の一縷にすぎません。

イントロからアグレッシブなリフレインのサウンドはクラヴィネットと、エレキギターなども重なっているのかどうか、ざりざりっとしたささくれたような質感。

現実感のない歌詞のシュールな世界を、荘厳なバックグラウンドがあの世に送るみたいです。さまざま、私のツッコミ心をくすぐっては、コーラスの結びとなるフレーズは共通で“毎日 吹雪 吹雪 氷の世界”です。私の理性の視界をホワイトアウトさせてしまう、氷の世界よ。もう現実なんてどうでもよし……そんな気にさせます。危ない魅力です。

氷の世界 井上陽水 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:井上陽水。編曲:星勝&ニック・ハリスン。井上陽水のアルバム『氷の世界』(1973)に収録。

井上陽水 氷の世界(アルバム『氷の世界』収録)を聴く

まいにーち、「ふ・ぶ・き、ふ・ぶ・き、こ・お・り、の・せ・か」い〜〜!!、と、強烈に8分音符の3つのまとまりでアクセントをつけます。私の心はもう猛吹雪です。

「窓の外ではリンゴ売り」……という歌いだしに入るまでのところや、相似するそれ以降の箇所でバックグラウンドボーカルの女声が「とぅーる!」といった発声。これが私にはリンゴ売りを象徴しているのではないかと思えました。緩急のあるリズムで、短い語彙ですが雄弁です。低音金管も、くだんの「吹雪吹雪……」のところでバ!と音をタイトに止める語彙を見せます。音を伸ばすところとの豪快さの振れ幅が出ますね。

オープニングのイントロはゲインの効いたじわっとしたサウンドでリフレイン。エレキギターの音色にも似ますが、クラヴィネットが2トラックぐらい入っているようでしょうか。右寄りと中央寄りのトラックがいるように感じます。音程が、エレキギターをチョーキングしたみたいに揺らいで感じるところがあるのですが、クラヴィネットって鍵盤を強く押すと音程のポルタメントを表現できたりするのでしょうか。実機を知らないのでなんともいえません。やはりエレキギターなのかな。

ドラムスの豪快さも圧巻。左寄りにシンバルやタムの一部が振ってあるように感じ、パターンのなかで音像に動きが出ます。ベースはくだんのオープニングからのリフレインの音形に加担します。空間をよぎるように、絢爛なピアノのオブリガードが控えめ・適確な音量で入ってきます。

エンディングがまた圧巻です。数人でボーカルフェイクしているのかな。ヒステリックなまでに高い声を出している中に井上陽水さんもいるのでしょうか。右のほうには音程をグリッサンドあるいはポルタメントでずりずりと滑らせる低音金管、これトロンボーンでしょうか。挙句の果てにハーモニカの間奏のときの語彙の再現も仲を割って入ってきて、混沌です。景色はもはや猛吹雪のまま私の意識ごと音量の減衰とともに遠のかせていきます。

リンゴ売り視界遠のく猛吹雪

謎に17字(川柳)でお開き。

青沼詩郎

参考Wikipedia>氷の世界 (アルバム)

参考歌詞サイト 歌ネット>氷の世界

井上陽水 オフィシャルサイト [ Yosui Inoue Official Site ]へのリンク

『氷の世界』を収録した井上陽水のアルバム『氷の世界』(1973)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】誰が売るリンゴ『氷の世界(井上陽水の曲)』ギター弾き語りとハーモニカ』)