引導を渡す機熟

年末から年始の情景を思わせます。夏にリリースされたアルバムの収録曲だったというのにびっくりです。

ごわーん!と、鐘の音色を思わせる音色はエレキギターで表現したのかと思いますが鐘の音色のサンプリングなのか? 分かりかねますが、除夜の鐘の音色を思わせ、世間的なビッグトピックがついにやってきた、機が熟したかのような高揚を私にもたらします。あるいは「お前はもう終わりだよ。交代のときが来たんだよ」と引導を渡されるような気分にも似ていて、何かこれまでさんざん悪事の輪廻にのってやりすごしてきた私に終わりの時を告げるような、「観念しろ」と手錠をかけられ逃走劇に終止符が打たれるような……そんな気分にさせる無情感があります。

はっぴいえんど特有のボーカル表現も相まってそうした、得体の知れぬ何か……これを語彙に変換すれば「革新」でしょうか……がやってきてしまった、私の胸につきつけられてしまった気分になるのでしょう。ボーカルの声の質感は感情や個人のコンディションを超越した向こう側から抽出したような無機質な趣があります。

16ビートの強烈な分割のフィール、アコギのストラミングがあらわになったり、エレキギターがじりじりと発熱するようにオブリガードしたりとダイナミクスや音の華やかさにおける起伏が海辺の波のように間断なく押し返します。

『ゆでめん』(アルバムジャケットに由来)と愛称される傑作アルバムの一曲目です。

春よ来い はっぴいえんど 曲の名義、発表の概要

作詞:松本隆、作曲:大瀧詠一。はっぴいえんどのアルバム『はっぴいえんど』(1970)に収録。

はっぴいえんど 春よ来いを聴く

「春が訪れるまで 今は遠くないはず」というフレーズの末尾。始まった新年が暮れちまうぜ、というくらいに「遠くない……は……ず」といった具合に長く伸びます。

これははっぴいえんどの楽曲の、歌詞の音符への割り付け方の独創性のごく一例でしょう。こうして、言葉そのものがもつ本来のリズムを再構築した趣があることが、彼らの革新性の一因です。

その作詞者の松本隆さんのドラム。ハイハットを短く小さくタイトに、ティップで触るように鳴らし、タイコの類の響きが暗に強調され、はっぴいえんどのバンド全体が醸すなにかなまめかしくおぞましい闇に共謀するかのようです。ベースのグルーヴが細かい。このタッグがあればこのバンドは闇まで行ける。世にいう「ハッピーエンド」が一般に光だとたとえてよいのであればその先まで。

エレキギターのじりじりと焦げ付くようなトーンが両サイドにはりつきます。除夜の鐘を思わせる音色はやはり鐘の音色のサンプルなどでなくエレキギターの音色であろうというのが今回ヘッドフォンで聴いてみた限りの結論です。バンドの音がとても完結性が高い。そこに演出の要素を感じるのが、この鐘の音色を模したようなエレキギターの和音です。

そしてエンディングでタンバリンの音がはじめて鳴り始める。これは春の音色です。近づいてきやがった。そしてそれまでなかった「倍テン(倍のテンポ)」系のベーシックパターンにしれっと切り替わり、春の訪れの誘引を加速します。

あの世の霊を憑依させるのがイタコなら、「春」を憑依させるのがこの楽曲です。聴いているリスナーの現実の季節がいつでも関係がない。いつでもこの曲を聴けば、春が忍び寄って来て2次関数曲線的にやって来てしまう。

未知の音はおぞましいのです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>はっぴいえんど (アルバム)

参考歌詞サイト 歌ネット>春よ来い

はっぴいえんど ソニーミュージックサイトへのリンク

『春よ来い』を収録したはっぴいえんどのアルバム『はっぴいえんど』(1970)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】引導を渡す機熟『春よ来い(はっぴいえんどの曲)』ギター弾き語り』)