1歳にも92歳にも博愛をもって

雪の降る闇夜から暖炉の灯りのひとつでも見えてきそうなイントロ。ストリングスの響きが強くてみずみずしいです。対してダウンストロークするエレキギターの音色はほろほろとカドのやわらかなジャズトーン。

ナット・キング・コールの歌声は朗々としていて、ボーカルの縦線に対する前後の揺らぎが強いです。縦の線を己のなかに持つからこその揺らぎなのか、あるいは言葉の連なり、文章の方向性に導かれるように、意識の幅へのまたがりかたが広くなり自然にこうした揺らぎが生じるのか、いずれにせよ器の広さ・寛容さを思わせます。

エンディングでエレキギターが「ジングル・ベル」のモチーフを引用するのが憎いですね。

「クリスマス・ソング」などといったキーワードで適当に検索するとあまりに多くのものが出てきすぎてこの曲へリーチするのが難しくもあります。「The Christmas Song , Nat King Cole」などとバチっと固有名詞を狙い撃ちすれば大丈夫でしょう。

老若男女にメリークリスマスを伝える率直な博愛が主題です。

The Christmas Song Nat King Cole 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Mel Tormé、Robert Wells。1945年に書かれ発表されたといいますが、楽譜での出版なのかオリジナル歌手がいるのか不明。Nat King Cole Trioのシングル曲(1946)となる。1961年のアルバム『The Nat King Cole Story』のために再録音され、その再録音音源が1960年のアルバム『The Magic of Christmas』の改題・再発アルバム『The Christmas Song』(1962)に追加収録されているようです。

サブスクなどの検索でヒットしやすかったり、コンピ盤などでアクセスしやすかったりするのは後者の1961年の再録音源に軍配が上がるように思えます。1946年バージョンは少しがんばって探すとリーチできそうです。

Nat King Cole The Christmas Song(『The Christmas Song』収録)を聴く

右に高域、左に内声のストリングスの定位がわかれてきこえるステレオバージョン。アルコの中高域パートに対してボウンとコントラバスのピツィカートが深い暖炉の奥みたい。ピアノの打鍵の質感は燻された家具みたいにテクスチャが生々しく収録されていて耳福です。

エレキギターの音色はこれぞジャズのクリーンサウンドという感じでトーンを絞ったような角のまるいサウンドです。

ドラムはいない? かと思えば、数百メートル先のトンネルの出口の光かよと思うくらいにサパ……ファサ……と、ブラシがスネアの表面をさわるような音が奥のほうからわずかに聴こえる気がしますが私の気のせいじゃないよね?

ステレオで定位がわかれているので、弦のパートによるフレーズのすみわけやかけあいが臨場感をもって堪能できます。

エンディングにハープがほほを撫でる風みたいにはらはらと駆け回るように聴こえるのですがお前もいたんかいという感じです、これも幻聴じゃないよね? おのれの耳を疑うような繊細で解像度の高いみずみずしい音からなるオケを、朗々としたナット・キング・コールの歌声がリードし、磁場を安定させるかのようです。

エンディングのギターの「ジングル・ベル」のオマージュが、1歳から92歳まで今日はなんの日かわかるよね? とニッコリ笑顔をそっとなげかけるみたいなウィットでやさしげ。

普遍で、人をえらばない、一年に1度(1日)だけのメッセージ「メリー・クリスマス」は大衆から大衆への博愛です。

1946年バージョンの『The Christmas Song』(コンピ『GREATEST CHRISTMAS~CLASSICS&JAZZ』収録)

ピアノ、エレキギター、ベース、ボーカルのみでしょうか。タイト(ぴったり)なパート編成でありながら極めて豊かで寛ぎのサウンドです。

ピアノの音の置き方に余白がたっぷりあって良いですね。こんなんで良いんだな〜と自省させられます。ほとんど、ボーカルのオブリガードかと思うくらい、弾く頻度、打鍵の頻度を絞っているように思えます。ギターとベースがいるからそれでいいんです。必要十分なんですよね。

ボフンと太いベースの質感、これがあればリビングはOK、家族みんなが同時に座れる広く深いソファみたいな存在感です。エンディングでアルコが出てくるのが良いですね。それ以外本編はほとんどピツィカートです。

ボーカルの質感がドライで、私室でマイクを立てて録っているみたいな音像です。ドライとはいえきわめて暖かい音像です。

チリチリノイズがあったり音の歪みもあります。マスターテープがもうなくて、レコードからマスターを採取しなおしたのかな?などとも想像しますがそもそものマスターが歪んだりノイズがのったりしているのかもわかりません。それも含めて、プライベートな空気を感じる音響のサイズ感がカジュアルで身近に思わせてくれる。レジェンドたるナット・キング・コールも、身近な人とクリスマスをシッポリ祝ったんだろうななどと思わせてくれる音源です。

エンディングのエレキギターのジングルベル引用はこの時からもちろんあるんですね。存在感が際立っており、狙いすましたオマージュである意図が伝わってきます。

青沼詩郎

参考Wikipedia>The Magic of Christmas (Nat King Cole album)The Nat King Cole StoryThe Christmas Song

参考歌詞掲載サイト 世界の民謡・童謡>ザ・クリスマスソング 歌詞の意味 ナット・キング・コールのカバーで有名なクリスマスソング

1961年録音バージョンと思しき『The Christmas Song』を収録したナット・キング・コールの『クリスマス・ソング』(1962)

1946年バージョンと思しき『The Christmas Song』を収録したコンピ『GREATEST CHRISTMAS~CLASSICS&JAZZ』(2019)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】1歳にも92歳にも博愛をもって『The Christmas Song(Nat King Coleの曲)』ギター弾き語り』)