質感の刷新と残留

鈴木茂さんソロファーストアルバム収録のこの曲を聴いて、あらためてはっぴいえんどの独創性の一因にふれたきがしました。

日本語は1子音1母音の関係が強いです。ひとつの発音を伸ばしながら複数の音階音にまたがっていく歌唱は詩吟、あるいは長唄などの三味線音楽の歌唱のようにも思えます。はっぴいえんどの楽曲にはそうした特徴がロックバンドの楽器編成にフィッティングされていた点がその独創性に与していたように思えるのです。

鈴木茂さんのこのソロ曲『微熱少年』において、はっぴいえんどの諸作品にみるようなひとつの母音の発音が粘り気を帯びるように複数の音程にまたがり「ふし・うたいまわし」のような意匠をなす箇所は、はっぴいえんどほどに強く現れているわけではないと思うのですが、それゆえにかえって、「はっぴいえんど熱」をわずかに引き摺った微熱箇所があるように思えて魅力です。はっぴいえんど作品は詞先で作曲したように思える特徴が顕著なものがままありますが、この『微熱少年』にも詞先らしさがいくらか感じ取れる意匠がある気がします。

そんな「はっぴい」的な微熱を残した楽曲の骨子・意匠を、海外ミュージシャン勢と合流した卓越した痛快で明瞭でエッジーなサウンド・演奏が具現化しているところが特筆の魅力です。また鈴木茂さんのボーカルが「はっぴいえんど」的な影や涼やかさを残しつつも明らかに輝かしく際立っています。率直にカッコイイ。

この曲を収録したアルバム『BAND WAGON』ですが、およそ34分の収録時間の流れと質感的なまとまりの良さもあいまって延々と聴けます。ポンと反射神経のままに飛び出したようなカラっとした潔さと輪郭が恒久な時間の錬磨にどこまでも付き合います。

微熱少年 鈴木茂 曲の名義、発表の概要

作詞:松本隆、作曲:鈴木茂。編曲:鈴木茂、“Horn Arranged by Kirby Johnson”。鈴木茂のアルバム『BAND WAGON』(1975)に収録。

鈴木茂 微熱少年(アルバム『BAND WAGON』収録)を聴く

演奏能力がつよつよすぎて笑えてきます。

針の穴を通すかのような精密なドラムスの16分割が流星群みたいに間断なく降り注ぎます。私はいつ息をしたらいいんだ? 呼吸が止まりそう。まるで緊張と集中の循環呼吸です。

ベースの浮遊感がすごい。ハイフレットでぽけぽけと何かをつぶやいては地平をぐいーんとなでます。暴風を乗りこなすグライダーかよ。ドラムスとコンビネーションして、1000本くらいの針の穴に0コンマ秒で糸をまたたくまに通していくよう。人間ですか、本当に?

イヤホンで適当に聴いたときはもうクラヴィネットなんだかワウギターなんだかよく分かりませんでしたが、ウェウウェウ……とまろやかな音色、あるいはワカポコ!っとするどく千変万化するエレキギターに、コパコパキチキチとエッジの明瞭なクラヴィネットは別にいて、さらにはじわりと星空が涙でにじむみたいなエレクトリックピアノがそれぞれ別で入っているようです。

そしてリードボーカルの空間の出入りを受け渡しあうように鋭くも明るく豊かな質感のリードギターが雄叫びをあげます。ボトルネック奏法の呼吸がすごい。歌をうたうように、シャウトするように泣きあげるエレキギターはもう人の声のように雄弁。

無限の集中力極まる循環呼吸みたいなベーシックに、ホーンセクションが長い音価を入れていきます。こいつらがいなかったら私は嵐のような情報量の演奏に酸欠でひっくりかえっていたかもしれない、そう思わせるような安心感をくれます。調和や壁としての支えを思わせるホーンセクションはさておき、サックスのリードは華があります。

ただ演奏の達人があつまりさえすればなんでもこうなるか? そんなはずはない。どうなってんだ? と思わせる神秘が歌詞にもあらわれます。

”窓のガラスを叩く 野球帽子の少年の ビー玉を石で砕いては空に撒き散らす ほらね 嘘じゃないだろう 路面電車は浮かんでゆくよ 銀河へと”(『微熱少年』より、作詞:松本隆)

人間の指や手、腕の運動、素材の質感とエネルギー衝撃を受けての因果、変化の経過。具体物(名詞)どうしが相乗して幻想的な風景に昇華されていくさまが痛快で、その痛快さはサウンド・演奏との接着により強固な輝きを放ちます。

路面電車は浮かんでゆくよ 銀河へと だなんて、なんだかまるではっぴいえんどの後日談ではありませんか。あるいはここが始まりなのでしょう。心のなかのビー玉を砕くことができるか? 青少年の進化は無慈悲な精神と身体の反射からはじまるのです。都市の景観は文脈と遺構と創造のマーブル模様だよ。

2025年リマスターバージョン

2025年リマスターバージョンは各トラックが肉厚になった印象で質感が太く暖かい。発熱が度合いを増して感じます。右側定位のサックスのギラつき・色めきにさらなる臨場感を覚えます。

青沼詩郎

参考Wikipedia>BAND WAGON

参考歌詞サイト 歌ネット>微熱少年

鈴木茂 Shigeru Suzuki 公式ホームページへのリンク

『微熱少年』を収録した鈴木茂のアルバム『BAND WAGON』(オリジナル発売:1975年、2017年のリマスター)

『微熱少年』を収録した鈴木茂のアルバム『BAND WAGON-50th Anniversary-2025』(オリジナル発売:1975年、2025年のリマスター)。Disc2が内容豊富なBlu-rayオーディオ。