目指す降下地点へまっしぐら

スーパーパラシューターという言葉が一般的に存在するのかわかりませんが、パラシュートする人のなかでも卓越して鋭く突き抜けたパラシュートをする人……それに「恋の」という冠がついたと解釈してみます。あなたの心への「まっしぐら感」がすごい。【スー「パー」「パ」ラシューター】と、破裂音を連ねた弾ける印象も千金です。

”たったひとつの恋の真上に 落ちてゆけたら死んでもいいわ 恋のスーパーパラシューター Oh yah!”(『恋のスーパーパラシューター』より、作詞:荒井由実)

その私の印象に違わず、「死んでもいいわ」と恋にかける想いを極端に表現します。そう、恋は極端なもの。病に喩えられることもあるくらいの非常事態なのです。そりゃぁパラシュートも必要になるわけです。

死んでも良いならパラシュートは必要ないのでは? との不粋なツッコミを思いついてしまいました。ただ無装備でダイレクトにまっしぐらに落ちて行けばいいはずです……が、これには思い直した点があります。それは、パラシュートを用いることによって、ある程度狙った地点に降下するコントロールが効くようになるであろう点です。

つまり、主人公にとってこの恋は必ずしも制御不能の暴走状態ではなく、意志の介在がきちんと感じられるのです。かつ、洒落っ気やお茶目さも合わせ持ちます。

8分音符を多用したヴァースの歌メロにはスピード感があります。直前のフレーズ尻と次にはじまるフレーズ頭の音程が同度である箇所が複数見られ、ちょっと意外なコード進行が敷かれていても流れの良さ、筋の通った頑固ささえも保っているのです。

意外なコード進行やスピード感のあるボーカルのリズムで魅せるヴァースとブリッジですが、コーラス(サビ:歌詞が“恋のスーパーパラシューター”のところ)でボーカルの音価が一気に大きくなります。

これはまさに落下傘が開いた瞬間の意匠です。空気抵抗をいっぱいに受けて、景色の流れが相対的にスローモーションに移行したと錯覚するくらい音楽に動きが出ます。

荒井由実『恋のスーパーパラシューター』サビのボーカルメロディの採譜例。広くなる発音と発音の間の余白にバックグラウンドボーカルが入ります。Cコードに対してセブンスとナインスの音程で緊迫感を加え、リズム的な補完はまるで段階的に開くパラシュートの様子を演出するよう。

いかに緩急や起伏を盛り込むかは作詞作曲者の工夫のみせどころで、サビに緩急の「急」のほうをもってくる手法は一般的な気がしますが、サビでグッとブレーキがかかる印象すなわち緩急の「緩」の方を与えている楽曲は案外少なく、私がこの曲に猛烈に惹かれる部分です。シングル曲にみじんも嫉妬する様子もなく、勢いにまかせた潔さすら感じる快作。

本曲を収録したアルバム『ひこうき雲』はバック・バンドがキャラメル・ママのメンツで、演奏者のグルーヴやダイナミクスの卓越した息遣い・感性が作品の質感を掌握。演奏・編曲の質感や手技を血・肉に、ユーミン(愛称で失礼します)の楽曲の骨子そして空気や色味や匂いが唯一無二の独創性を漂わせています。

恋のスーパーパラシューター 荒井由実 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:荒井由実。編曲:荒井由実、キャラメル・ママ。荒井由実のアルバム『ひこうき雲』(1973)に収録。

荒井由実 恋のスーパーパラシューターを聴く

ユーミン(愛称で失礼します)の青々としたまっすぐな声と、300年くらい生きている妖狐みたいな朗々としたバックグラウンドボーカルのメラメラな響きの掛け合いの対照的な存在感がスカイダイビング級の触れ幅で私の耳をつかみます。

左にピアノが振ってあり、右にエレクトリックピアノです。ぴしゃん!とはじける印象のピアノと、じんわりとにじむ印象のエレクトリックピアノが対照的。この振れ幅もまたパラシュート感。エンディングでグリスダウンして落下傘をとじるピアノが潔し。

ドラムの語彙が豊かです。特にブリッジのところで変化する、オープンハイハットを交えたパターンが好き。コーラス(サビ)に入ってやっと普通に刻み出したかなと思えばせいぜい同じドラムフレーズの愚直な繰り返しが続くのは2小節程度。常に空中を降下する主人公をくるくると振り回すみたいなドラミングが痛快。

ベースの音色がスピーカーコーンがぶりぶりいっているようなドライブ感があって耳を惹きます。堪能でそれぞれにアグレッシヴな各楽器トラックを接着し、かつベース自身も個性で競り勝つためにこの曲にはこのベースの音色ありきと感じます。

各楽器の定位がはっきりしているのが、演奏者同士の自立した強い印象につながります。ドラムスのタムタムが右側に強烈に振られているのも迫力があります。バックグラウンドボーカルはそのあまりある力強さとほどよく距離をとった音像で、残響感がありこれも各楽器のあいだにある空間の広さを感じさせる一因です。

間奏でN. C. (ノン・コード)になりサンバ音楽が降臨したか?と思うリズムソロ。マリンバの音色がここでだけ炸裂します。パラシュートが開かなくて焦った! みたく、駆け抜ける曲調のなかに一箇所だけ強烈な、気分的な異分子が含まされていてカットが変わるのです。ユーミン(とそのチーム)はソングライティングで映像を魅せる魔術師。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ひこうき雲 (荒井由実のアルバム)

参考歌詞サイト 歌ネット>恋のスーパーパラシューター

Yumi Matsutoya Official Site 松任谷由実 オフィシャルサイトへのリンク

『恋のスーパーパラシューター』を収録した荒井由実のアルバム『ひこうき雲』(1973)

参考書

『僕の音楽キャリア全部話します: 1971/Takuro Yoshida―2016/Yumi Matsutoya』(2016年、新潮社、著:松任谷正隆)。『恋のスーパーパラシューター』に絞って詳しく書かれているわけではありませんが、アルバム『ひこうき雲』の制作時の背景やストーリーに言及しており、松任谷正隆さんの目線を通した体感が知れるのでいちリスナーとしても作品に対する解像度が得られます。

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】目指す降下地点へまっしぐら『恋のスーパーパラシューター(荒井由実の曲)』ギター弾き語り』)