失恋男のおそろしさ
恋に傷ついたオトコが何をしでかすか教えてやろう。世界中の女の子という女の子のハートをぶち壊してまっぷたつにしてまわってやるからな! せいぜいあらゆる娘たちを隠しておくがいい。僕が行くからな!! ……でもその瞬間が実現するまでは、僕はしめしめ泣いておくしかないんだ…… というようなニュアンスを、邦題の『ぼくが泣く』が含んでいるのだとしたら確かにいくぶんわかりづらい日本語ネーミングかもしれません。「instead」が、何と何を天秤にかけているのか背景を察した時に楽曲の味わいが腑に落ちる思いです。
ジョン・レノンの突き抜けるボーカルは彼自身の実際のキャラクターと楽曲のキャラクターの相乗によるところがありそうです。極端で振れ幅のある感情や思考・物語のような豊かな想像力を持つ心にのみ書くことが許される、門戸が開くソングライティングに思えます。
スピーディではずんだグルーヴの英語の歌はロックンロール、ロカビリー、リズムアンドブルース、あるいはモータウン系の楽曲だったりに多く見られますが、そういう歌のコピーはつくづく私には難しいなと実感します。口がまわらない……次から次に単語が瞬間的に連なっていくので、反射神経で英語で反応できるくらいでないと曲のほうに置いていかれてしまいます。そもそもが聴く者を凌駕し、圧倒してやるぜ!という音楽スタイルなのだともいえそうです。
I’ll Cry Instead ぼくが泣く The Beatles 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Lennon-McCartney。The Beatlesのアルバム『A Hard Day’s Night』(1964)に収録。
The Beatles I’ll Cry Instead ぼくが泣く(アルバム『A Hard Day’s Night』2009 Remaster収録)を聴く
ジョンのダブルのボーカルだけなんですよ、リードが。そこがなんだか失恋オトコのひとりよがりで自暴自棄なところをうまく描いている気がするんです。他のメンバーによるハーモニーパートも寄りつかない。今のあいつはほっとくしかない。そのうち治まるだろ……という。
左にエレキがいて、チャっと音を止めたり刻んだりと、アルペジオ風に漂わせたりと緩急と響きの開きと閉じの幅を出します。セブンスの響きも良いね。
ドラムも左寄り、ベースも左寄りな定位です。ドラムは終始ハイハットを開いていて響きの血圧高め。右のタンバリンが対になっていて、アクセントの付け方がなかなか強いです。アクセントの頻度を増やしてスネアに重ねたり、ヴァースでは減らしたりして熱量をコントロールします。タンバリンのオルタネイトの振り方によるタイム感で、曲の弾み具合が左右されている感じもします。つくづく、タンバリンは軽くて誰にでも出来そうな楽器に思えて、最後の最後に楽曲を良くも悪くもしてしまえる「恋」のようないたずらにも華やかなパートだなと思います。ドラムは2小節くらいがっつり静かにしてみる部分を特定の箇所につくって、血管に休みをくれてやっている感じです。
失恋男の叫びに腹を割って終始付き合いつづけてくれるのは右側定位のアコースティックギターです。お前だけが俺の心の友だよ。
Gメージャー調で、ブリッジからヴァースに返ってくる直前のところで(But I’ll come back again somedayにさしかかるあたり)D→E7→A7と転々としておきながら、長二度下がってしゅんとGコードのヴァース(do you better)に戻ってしまうところが、失恋に傷ついて大口叩いたところでそれを実現するまでの肝を本当は持ち合わせていないみたいな気の小ささに思えてかわいくて絶妙です。
青沼詩郎
参考Wikipedia>ぼくが泣く、ハード・デイズ・ナイト (アルバム)
参考歌詞サイト Musixmatch>I’ll Cry Instead
『I’ll Cry Instead』を収録したThe Beatlesのアルバム『A Hard Day’s Night』(1964)