羞恥心から逃れて
身に纏ったビキニがはずかしくてロッカーを出てこられない。
やっとこさロッカーの外に出たが、身に纏ったビキニを内側に覆い隠すblanketを取り去ることができない。バスタオルみたいなもんをつけたまま水に入る奴なんざこの世界のどこにもいやしないぜ?
……と、しゅっとタオルを外してパっとプールに入ったんだろうか。
……と入水したが最後、己の恥ずかしいビキニ姿を水の外の目線から守ってくれるその水のなかから、上がってくることができない。そんなにいつまでも水の中に沈んでたら風邪ひいちゃうぜ? 上がっておいで、もう逃げ場はないよ(その可愛いビキニ姿を見せてごらんよ)。
というような、だいたいお決まりの型の歌詞の枠を崩さずに、少しずつ状況が進捗していくような、彼女が人の目線から隠れる手段が変わっていくだけで状況実は何も変わっていってない(むしろだんだん追い詰められていく)ようなおかしみがあります。

「ぱっ!ぱっ!ぱっ!ぱっぱ」……とはじけるように元気にスタッカートする女声のバックグラウンドボーカルに、甘くささやくようなほとんど息だけでしゃべっているみたいなやさしげなトーンの女声の「さあ、何を着ているのか衆人に見せてみて」というせりふが入ります。
ストーリーテラーでリードボーカルのブライアン・ハイランドの歌声は甘く柔和です。お兄さんがイケメンボイスだから彼女はより頑なにブランケットを外すことができないのです。
コツン、コツン……とカウベルがビートを先導するとともに、彼女がビキニ姿をオープンにするのを煽るみたいな響きです。
ティーンエイジャーぐらいの女性のストーリーを思い浮かべる方もいるかもしれませんが、作詞作曲者側がこの曲を発想するきっかけは、比較的幼い娘さんの実話をもとにしているそうです。ブライアン・ハイランドがテレビ出演(?)した際の動画を検索することができると思いますが「she」の役は思春期にさしかかるよりもずっと幼い子役が演じています。
歌詞や音楽の構造は基本的に3番までずっと一緒ですが、「ぱっ!ぱっ!ぱっ!ぱっぱ」……と元気な女声、「…two, three, four, tell the people what she wore」と唱える女声のささやき、そして3番に突入する直前の半音上への転調(D→E♭)など音楽的あるいはサウンド的な要素の豊かさで聴かせます。またエンディングにはそれまでなかった音楽のパーツ、すなわちコーダ的なものが付き、ロッカーからブランケットへ、ブランケットからshore[海辺]へ、海辺から水中へ……さぁもう手駒は尽きたぜ? と3番までの動きを実際の歌詞の中で総括してしまいます。
曲のエンディングで、すっぽりと収まりよくまとめ構造にリーチできているオチの良さは、ひとつにはストーリーテラーにとって彼女(She)の羞恥心が他人事だからこそ客観に徹することができる、というのもあるかもしれません。たとえば、主人公が己の失恋の痛みを嘆く曲だったら、こんなにきれいにオチをつけて想いをまとめることは難しいでしょう。
初めてチャレンジした大胆な水着が恥ずかしい、というのも普遍的な感情だと思いますが、この楽曲のオチの良さ(まとめの他人事感)にフォローを入れるとすれば、大胆な水着をまとってしまった本人は確かに大きな恥ずかしさに苛まれるかもしれませんが、まわりの人は本人の恥ずかしさに比べたらたった一人の女の子の大胆さをそんなに大袈裟にからかう意図など持たない、という点です。水辺でビキニでいることはごく普通のことではありませんか。
堂々としていること。何もおかしいことなんてない。これが私だよ、とただそこに立てば良い。簡単なことなのですが、難しいのかもしれないね。
ビキニスタイルのお嬢さん Itsy Bitsy Teenie Weenie Yellow Polka-Dot Bikini Brian Hyland 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Lee Pockriss、Paul Vance。Brian Hylandのシングル、アルバム『The Bashful Blond』(1960)に収録。
Brian Hyland Itsy Bitsy Teenie Weenie Yellow Polka-Dot Bikini(アルバム『The Bashful Blond』収録)を聴く
パッパッパ……というバックグラウンドボーカルとベースがユニゾン。衆人の目線が彼女の方へと「まとまる」ニュアンスの代弁でしょうか。
ベーシックの編成がすごくシンプル。コードとリズムのアコギがチャク、チャク、と緩急とはずむ躍動感に満ちています。ベースが低音位と表拍の質量感、そして裏拍ではずみ具合を表現します。ドラムはカウベルをセットに組み込んだ感じで、一人の演奏者が担当している感じでしょうか。
ぱっぱっぱ!と言うだけでなく、ウーとかいった伸ばす発声でバックグラウンドボーカルが和声感を出します。E♭に転調してからは、バックグラウンドボーカル含め全体の熱量と輝きが増します。ヴァースでのバックグラウンドボーカルの語彙的にもそれまでになかったパターンがあらわれだし、彼女にいよいよ逃げ場がないことを嬉々として茶化すかのよう。本人が恥ずかしがると周囲はむしろ面白くなってしまうのもまた普遍的な真理(心理)かもしれません。
エンディングのストーリーまとめのラインは女声のバックグラウンドボーカルが担い、ラストのフレーズ「Guess there isn’t any more」をブライアンが歌って海水浴はお開き。ごく局所的にエレキギターのストロークが入って華やかな印象を演出します。歌がスポットライトを引く(歌詞を聞かせる)ときは、バックトラックが良い意味で地味にしている意匠が適確です。
青沼詩郎
参考Wikipedia>ビキニスタイルのお嬢さん、ブライアン・ハイランド、Brian Hyland
参考歌詞サイト Genius>Itsy Bitsy Teenie Weenie Yellow Polka-Dot Bikini
『Itsy Bitsy Teenie Weenie Yellow Polka-Dot Bikini』を収録したBrian Hylandのアルバム『Bashful Blond』(1960)