キッスのラヴィン・ユー・ベイビー(I Was Made For Lovin’ You)とセクシャルバイオレットNo.1
「カバーしたい歌」と名前をつけたプレイリストに、私はその名前のとおり、カバーしてみたいなぁと思う曲をわんさか追加してストックしています。
カバーしたいといっても、きちんとマルチトラックのアレンジを決めて、バックトラックをちゃんとレコーディングして、歌なんかも別録りしてちゃんとした録音物をつくって発表する……という、いわゆる一般的な商業音楽のクオリティを備えたカバーなんてものではなく、単に弾き語りコピーをしてみたい、という程度の意味の「カバーしたい歌」というのが私にとってのそれです。
そのプレイリストのなかにはそれこそロックバンドのレパートリーもあるし、洋楽もいっぱい入っています。
そのなかの一つに、上の見出しにあるようにKISSの『I Was Made For Lovin’ You』を入れてあったのです。
そのプレイリストを、シャッフル演奏して再生していたら、くだんのキッスのラヴィン・ユー・ベイビーが流れたのです。そしたら、「なんか聴いたことあるな」と。
このキッスのキッスによるラヴィン・ユー・ベイビーを聴いたことある、という意味ではありません。「なんかほかのやつ」で、そっくりな質感を聴いたことがあると直感したのです。
……
……。
しばらく黙って考える私。
思い出しました。『セクシャルバイオレットNo.1』です。桑名正博さんの。
すぐ検索する。作曲が筒美京平さんと出る。ははぁあん。「あるな」と。
何が「ある」のかというと、筒美京平さんの作品でたとえば『サザエさん一家』と1910 Fruitgum Companyの『Bubble Gum World』がクリソツであるという音楽通のあいだでは大変に有名な話があります。筒美さん作品において、ある洋楽作品の一部分をクリソツに真似るというのは前例を鑑みるに、大いに「ある」なのです。
ただ、『サザエさん一家』の作・編曲名義はともに筒美京平さん自身になりますが、桑名正博さんの『セクシャルバイオレットNo.1』の編曲名義は『桑名正博&ティアードロップス・戸塚修』となっているようです。その点において、今回のKISS『I Was Made For Lovin’ You』の一部分と桑名正博さんの『セクシャルバイオレットNo.1』の一部分が似ている件について、誰がどの程度の主導権を発揮してこれほどまでによくクリソツになったのかについては、『サザエさん一家』の件におけるほどには明確には特定できない……というのが部外者の私にとっての仕方なしな留意事項かなという気はします。ただそれはそれとして、このクリソツ案件に自分の記憶をまさぐることによって気づけたことが楽しくて痛快だった……との点だけはここにはっきりさせておこうと思います……それだけのことなんですけど……。
セクシャルバイオレットNo.1 桑名正博 曲の名義、発表の概要
作詞:松本隆、作曲:筒美京平。編曲:桑名正&ティアードロップス・戸塚修。桑名正博のシングル、アルバム『コミュニケーション(Communication)』(1979)に収録。
桑名正博 セクシャルバイオレットNo.1(アルバム『Communication』収録)を聴く
ポロロン♪という電子ドラムの音がなんだかチープでおかしみ。きらきらした、ハープシコードの音色をシンセで再現したみたいな音が猛烈な16分音符のアルペジオの雨をふらせます。
チープな印象の電子ドラムの音とは別で、ちゃんと生ドラムのベーシックリズムが入っています。テシ!とドライでミュートの効いたタイトな音。ベースもゴシゴシと音の止め方がタイトです。
ズビーンとのびやかなエレキギターの帝王感が桑名さんの存在感にかさなります。シンセやらエレドラやらの華やかなぴゅんぴゅんキラキラした質感を、楽器のベーシックがタイトで硬派な質感をと、オケには振れ幅のある質感が共同しており、そのハイブリッドで混沌としたなかを、アーシーでハスキーな桑名さんのブルージーな歌声がまぁまぁお前らちょっと聴けといわんばかりに割って出てくる。この色気ならばまぁ聴こう。なんだい兄ちゃん、言ってみてくれ……ってカンジ(どんな感じだ……我ながら)。
ABメロがあって、それぞれ音形をミクロにみても、単純な形の愚直な反復とかが少ないんです。要素が豊か。モーツァルトタイプかベートーヴェンタイプか2つに1つでいったら、たぶん前者のモーツァルトタイプでしょう。泉のように豊かなキャラクターが次々出てくる感じです。
ABメロがあって、サビはセクシャルヴァイオレット×3、ナンバァワァァン……と、割とリフレインがあってシンプル。いわゆる洋楽のコーラス的なサビです。
で何かAとかBとかに帰結するのじゃなく、まさかのCメロが出てくる。泉のようなモーツァルトタイプですよ。また違うん出てくるん? という……泉っぷり。聴かせます。
エンディングあたりでは桑名さんのひとりダビングで、ふたつのボーカルトラックがかけあい、はっ倒しあうみたいな様相になっていきます。こういうのはほんとはキャラの違うボーカルでかけあったら面白いと思う。まぁ、桑名さんどうしのひとりセルフドツキ合いも、これはこれで面白いんだけど。
んでここであらためてキッスにご登場願う。イントロのギターの「(休符、)バッパー、バッパラ〜♪」のギターリフのところが、桑名さんの「(休符、)セクシャール、ヴァイオレ〜ッ」のサビのところにクリソツなんですね。どうでしょう、なんかごちそうさまっていう満足感がこみあげて来ませんか? 私だけかな?
いちおう時系列はキッスのラヴィン・ユー・ベイビーが1979年5月20日発売、桑名さんのセクシャルバイオレットNo.1が1979年7月21日発売ということらしい。反応が早いんだよね。昔の商業音楽って、その年の洋楽のヒットをその年のうちに(なんなら日本語の歌詞つけたりして)日本の歌手がカバーしてたりするんです。貪欲で、ハングリーなんですよ。オリジナル歌手の名のもとにそのヒット曲が長い年月をかけて従属してしまわないうちに、さも我が物のようにしてしまおうというハイエナ精神さえ感じもします。
青沼詩郎
参考Wikipedia>セクシャルバイオレットNo.1、桑名正博、ラヴィン・ユー・ベイビー
『セクシャルバイオレットNo.1』を収録した桑名正博のアルバム『Communication』(1979)