ロック州の宙への跳躍
ブルーノート(♭ⅶ、♭ⅲ)をふんだんにつかったボーカルメロディ、ギターリフ、コード進行によりブルースあるいはそれに根差したロック臭さを強く印象付けるイントロやヴァースに対してサビの冒頭4小節 “ロケットに乗って 君と二人で” のあたりはダイアトニックスケールとそれに根差したコードのフィールが強く、ヴァースとの好対照を成しています。
サビ歌い出し「♪ロケット〜(シ・ファ#・ソ#・ファ#)」の部分は1オクターブを超えて9°の極めて広い跳躍音程を含んでおり、電車でもバスでも飛行機でもなく、ロケットという私の日常生活とはかなりかけ離れつつも夢やロマンがある特殊な乗り物をモチーフ・主題にしたフレーズでサビらしいカタルシスをパワフルにもさわやかに表現してみせます。
歌詞面では恋愛が最大の関心事であるかのような10代〜せいぜい20代半ばくらいの人格を思わせる青臭さに正直な態度で、ブルージーなスケールのフィーリングを基盤にしたギターリフやヴァースのメロディやコードと、そうした奇を衒わない恋愛気質の歌詞がマッチングするとポップミュージックとして非常に良い塩梅を発揮しており、本作を含むファーストアルバム『TRICERATOPS』のほかの収録曲にも共通する秀でたバランス感、その方向性を雄弁に象徴します。
その感性は、丁寧に築いた洋楽ロックへの造詣を下地にしているからこそ滲み出る醍醐味なのかもしれません(和田唱さんはビートルズ好きとして知られる側面もあるでしょう)。スリーピースロックバンドでこんなことができる!という爽快な可能性を強く知らしめた、90年代後期の日本の商業音楽のわくわく感を象徴する好例として私の記憶に鮮やかにプリントされています。中指を立てた跳ねっ返りのロックフリーク感と大衆にフィットする愛嬌のバランス感が良く、そうした彼らのポジショニングやアティテュードを楽曲面で象徴する好例が本曲『ロケットに乗って』だと思います。
ロケットに乗って TRICERATOPS 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:和田唱。TRICERATOPSのシングル(1997)、アルバム『TRICERATOPS』(1998)に収録。
TRICERATOPS ロケットに乗って(アルバム『TRICERATOPS』収録)を聴く
スリーピースのギターバンドともなると、ブリッジミュートで抑えたメロと、ブリッジミュートを解いた開放的な響きのサビで対比をつける……などの構造があるあるとして思い浮かぶのですが、本曲ではそれをしません。基本的にはリフがつづくヴァース、そこからの(ロケットによる)離脱の快感で魅せる構造です。
メロでは5小節目以降でボーカルにハーモニートラックが現れますが、サビはフレーズの頭からハーモニートラックをつけて5小節目以降でハーモニーをやめるという構造になっています。トラック数が少ないが故、そうした押し引きの要素を一挙手一投足の要素が相対的に強く現れます。
一つひとつのパートの情報量が大きく、ベース、ドラム、ギターが醸す空間が克明に捉えられており、アンプがジーっと発するノイズまで感じられます。ベースのサウンドにもエアー感がありますね。何本くらいのマイクあるいはラインで録音しているのでしょうか。
ドラムはカツっと鋭く、しかしギターやボーカルに覆い被さらないタイトなスネアのサウンドが印象的です。あんまりハイハットのオープンで大仰に雰囲気を変えるとか、そういったことでメリハリをつけるといった方向性ではなくどちらかといえば動じないストイックさと緩急あるフィルインで的確に魅せていく態度を感じます。コーラスの間ではチャイナ系のシンバルなのか、バシャンと派手なサウンドのするエフェクティブなシンバルを炸裂させるところが小さい楽器編成のなかでサウンドに起伏をもたらします。
ギターソロはさすがにアディショナルのトラックでオーバーダビングしています。一つの弦の音程にもう一つの弦の同音をベンドでずり上げるフレーズで強いうねりを出します。このサウンド・奏法だけでもずっと聴いていられる私の個人的な偏愛ポイントです。
青沼詩郎
参考Wikipedia>ロケットに乗って、TRICERATOPS (1998年のアルバム)
TRICERATOPS Official Siteへのリンク
『ロケットに乗って』を収録したTRICERATOPSのアルバム『TRICERATOPS』(1998)