曲との出会い
あるアーティストの歌や歌手を選ばない童謡や民謡などなんでも良いのだけれど、真似て(耳コピして)歌って収録してYouTubeに公開する気まぐれを最近の私はしている。主に学習目的で、それを晒しているだけなのだけれど、それに反応をくれる貴重な人も中にはいる。
直接の友人・知人がリアクションをくれることもある。近所の友人がこんな音楽はどうかといくつか教えてくれた中のひとつが七尾旅人『サーカスナイト』だった。
音楽と歌詞
|ⅣM7‐Ⅴ|Ⅲm7‐Ⅵm|の繰り返しのコード進行とカウンターラインを奏でるエレクトリックピアノの音がリフレイン。シンセベースのサウンドに私は小沢健二『今夜はブギー・バック』を思い出す。コーラスがかったエレクトリック・ギターはミュートを効かせてカッティング。オープン⇔クローズドなサウンドを綱渡りのように行き来する。ここぞというところでストリングスのピチカートやウィンドチャイムがレンジを広げて光彩を添える。
コーラス冒頭の“Tight lope dancing”という歌詞が不安定の比喩に思える。ボーカルはシングルトーンを基本にしているけれど、このフレーズだけはダブって強調してある。それは僕か君いずれかの心かもしれないし、二人の関係かもしれない。揺れ、覚束ない綱渡り。「サーカスナイト」とはなんと妙な表現か。
佐野元春のザ・ソングライターズ
七尾旅人のことは知っていたけど、七尾旅人を聴くという意思のもとちゃんと聴く機会を逃してきた不勉強な私。
動いたりしゃべったりする彼のことを私がまともに認知したのはNHKの番組『佐野元春のザ・ソングライターズ』(2009~2012年)だった。ポップソングの歌詞こそ現代の詩である…というような佐野元春のことばが毎回本編の前に付され、私に印象付けた。現役シンガーソングライターのゲストが毎回来て、その中のひとりが七尾旅人(出演:2011年)だった。当時熱心な音楽フォロワーでなかった私でさえ「最近よく彼の名前を聞く」と思っていた頃の出演だった。どんな話を交わしていたっけ。彼の音楽の幅広さについて、いろんな作品歴をあげながら話していた気がする(もう一回観たいな…)。
本名?
初めて彼の存在を知ったとき印象に残ったのが七尾旅人という名前だった。Twitter上の本人アカウントのいくつかのやりとりから察するに「旅人」は本名に由来、「七尾」が芸名とのこと。
リンク集
七尾旅人 公式サイトへのリンク 彼の活動の独立・自律したふるまいが伝わってくる公式サイト。
『サーカスナイト』を収録した七尾旅人のアルバム『リトルメロディ』(2012)
サウンド&レコーディング・マガジン 2020年8月号。彼の自宅スタジオでの歌録り環境について取材されている。事前に愛犬をトリートメントし懐柔することが円滑に録音に入るための一環なのだとか(それをしないと吠えるなどして差し支えることがあるそう)。
https://www.cinra.net/news/2011/06/12/095600.php
2011年のNHK番組、『佐野元春のザ・ソングライターズ』への七尾旅人の出演について。
https://nearestfar.exblog.jp/238467944/
個人の方?のブログに引用された伊藤銀次のことばが七尾旅人の才能の一面をおしえてくれる。
ご笑覧ください 拙演
後記
君島大空と塩塚モエカ(羊文学)、ラブリーサマーちゃんなど若い世代のミュージシャンにカバーされている。『サーカスナイト』アナログ盤シングルには向井秀徳によるパフォーマンスも。本人にも業界にも大きな影響をもたらした曲か。私にまでその響きは届いている。
不安定な揺らめく心の刹那、恋愛の機微を映したかのような曲。決まったコード進行の基礎がそれを支えている。原曲はG♭メージャー調と私はとらえるが、曲中一度もⅠの和音(主和音。この曲でいえばG♭メージャー)は出てこない。エンディングはダイナミクスの揺れるエレクトリック・ピアノトーンのソロでフェイド・アウトしてしまう。どこまでも「サーカスナイト」なのだ。
青沼詩郎