慈しみの敬具
細野晴臣さんのアルバム『Yours Sincerely』(2026.9.11)にカバーが入っていて惹かれました。「Since(〜から)」の英単語は認知していましたがSincerelyは「心から」「敬具」みたいなニュアンスがあるそう。私は今回初めて認知した単語でしたがこれを印象的に用いて日本語をつけてカバーした細野さん。
気になって検索するとオリジナルはThe Moonglowsのシングル(1954)です。「月が輝く」「月明かり」といった意味のグループ名が素敵。このご本家を聴いてみると、ヴァースは細野さんのニュアンスと親和性を感じますがブリッジ(コーラス?)にさしかかるとR&B、ソウルらしい崩したハイトーン唱法があらわに。ヴァースもかなりリズムが細かく揺れていて採譜しようとすると単純化を強いられます。ソングライターはHarvey Fuqua & Alan Freed。Harveyはムーングロウズのメンバー。Alanはディスクジョッキーで黎明期のロックンロールをプロデュースしたりプロモートしたりするのに大きく貢献した人だそう。
Sincerely The Moonglows 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Harvey Fuqua & Alan Freed。The Moonglowsのシングル(1954)。細野晴臣がアルバム『Yours Sincerely』(2026.9.11)でカバー。
細野晴臣 Sincerely(アルバム『Yours Sincerely』収録)を聴く
ギターの弾み方が極楽。ちょっと独特の位相の感じ、あるいは極力短いタイムの複数のマイクで録ったボーカルの重なり、ダブリング効果みたいなものを感じる音像。ビブラフォンみたいなやわらかいオルゴールみたいな音色でばらけた和音が漂います。後半からブっと太い音色のベースも入ってくる。日本語の歌詞は細野さん(原詞と連名)だそうです。曲がはじまるやいなや背中がよろこび踊り出すわたし。グルーヴ最高。声の温かみの極みです。
細野さんのずっと前のキャリア、はっぴいえんどの作品を聴くと声が平坦でクールだなと感じることもあるのですが、何周半くらい周ってのことなのか細野さんのボーカルを聴くと温かいと感じることもままあります。真似したいけど真似がむずかしい平穏な慈しみ深い体温が尊いです。
The Moonglows Sincerely(配信シングル)を聴く
パロゥ…パロゥ……というボーカルスキャットが耳のフック。トリプレットのピアノのダウンストロークがやさしくふりそそぎ空間をしきつめます。クリーントーンのエレキギターのオブリガードは音色は甘くて月あかりのよう。パララララ……とスネアのブラシワークが極上です。粒がはっきりわかるプレイ。レギュラーグリップでオープンロールしたような解像度が達者。ぱらぱらとやわらかいタッチでなおかつ明瞭なブラシのスネアをアコースティックのベースが深く抱き止めます。
コーラス(Bセクション)の結びのあたりで花開くようにリードボーカルもハーモニーのボーカルも響きを開放的に量感をあらわにします。スムースな音色のサックスもいつのまにかいたことに気づきます。敬具の観念を丁寧に大胆に抽出した実演が尊い有り難み。
青沼詩郎
参考歌詞サイト 歌ネット>Sincerely(細野晴臣)
細野晴臣のアルバム『Yours Sincerely』(2026.9.11)
The Moonglowsの『Complete Singles As & Bs』(2017)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Sincerely(The Moonglowsの曲)慈しみの敬具【ギター弾き語り・寸評つき】』)