年末とサイレン

年末にサイレンって似合いませんか? サイレンって、私がいうのは緊急車両の発する警報音です。救急か警察か消防か、ガスや水道などのインフラかわかりません。ウーウー、ファンファン、カンカンいうような類の音です。非常事態なのでしょうけれど、日常で耳にする音でもあります。

あれが年末の頃に鳴るのを聴きます。すると私は、「だれか食べ物をのどにつまらせたのかな」「寒いから、心臓や血管や脳なんかに急性の疾患をおこしたのかしら」「交通事故かしら」「急いでたのかな」「気が緩んでたのかな」「酔った人が何かやったかな」「年末だからなぁ」「よりによってこんな時期にねぇ」「(緊急事態に対応する)お医者さんとか警察とか救急とか消防の人の手も少ないかも? こんな時期に緊急事態なんて、大変そう」などと想像をめぐらせます。

実際のところ、年末や年始の人員配置って、いろんな業界においてどうなのでしょう。稼げる業界は人々が休む(楽しむ)ときに働くだろうし、直接の利益とは離れたところで深遠に根付いた文化・風習・伝統にならって動く人もいるでしょう。効率の上下や利益の急騰と縁遠い(あるいはかえって非効率になったり利益が遠ざかる)業種では、きちんと休むのかもしれません。警察、救急(医療)、消防などは、それを職業とする人がいる事実はそれとして、いつ必要になるかわかりません。いつでも必要になりえる機関だともいえます。

緊急車両のサイレンは、きっと、年末でなくとも耳にしています。でも、年末の雰囲気を私が喫しているときに耳にすると、「こんな時期にねぇ」などと思い、サイレンの存在をふだんよりも強く意識しがち。

これがひとつ、「年末年始は倒れる人が多い」という、私が抱く「事実無根あるある」の種明かしなのではないか。

普段は意識しないものを、ある特定の時期に限って、それ以外の時期におけるそれよりも、強く意識することが私はあるようです。

mv 雪が降る町 UNICORN

スタジオのカット、都市と人の行き交う様子のカットなどが混じった映像。スタジオではメンバーが演奏しリップシンク。ひとりずつ円筒形の台の上に乗ったカットがあります。特定の作品を言えませんが、ある時代の洋ロックの映像を思い出すスタジオカット。

演奏と直接関係のないオフショットのようなカットも入ります。メンバーの茶目っ気が出ています。

小物で気になったのは、見るからにおもちゃ然とした電話機。エンディング付近で鍵盤楽器の平らな面に乗った「JR時刻表」。分厚い冊子です。雪を降らせた演出で白いもの(動画概要欄によれば発泡スチロール)がメンバーの頭や楽器に堆積。

エンディングではスタジオをあとにするメンバー。ファストモーション?(早送り)の映像です。年末っぽいそそくさ感。「おつかれ、おつかれ」という淡白な小声が聞こえてきそう。雑踏の音、人の声が重なっています。人の話し声が海外の言語にきこえますがどこで収録した音声でしょうか。緊急車両のサイレンも聴こえます。

曲の名義など

作詞・作曲:奥田民生。UNICORNのシングル(1992)。

私の聴いたツボ

野球応援でしょうか。オープニングに環境音。スタジアムで収録したのでしょうか。

チャイムのような、たった3音の下降音形のリフレイン。金属質の丸いアタックと純んだ響きがしんしんと「雪」の表現におもえます。

ドラムス、ベース、ギターがダウンストローク。強拍を押し出すグルーヴです。

サビでストリングスのような教会のオルガンのような音の幕が頭上に現れる感覚。サスティン(非減衰)系の音や前途のチャイム風の音などはぜんぶキーボードのなす業でしょうかね。

ベースのダウンビートのグルーヴに私の偏見ですが猛烈にビートルズを感じてしまいます。好きなやつです。

『With A Little Help From My Friends』

や、『All You Need Is Love』

のグルーヴやトーンです。

『雪が降る町』に戻ります。

最後のサビを終える5:15頃から5:50頃にかけて、シンセストリングスが上行を続けます。

コードは4小節単位でⅠ→Ⅵm→Ⅱm→Ⅴ。16小節かけて、2オクターブ半を一歩ずつ順次あがります。長ロングスパンです。

Ⅰ:|レ|ミ|ファ♯|ソ|

Ⅵm:|ラ|シ|ド♯|レ|

Ⅱm:|ミ|ファ♯|ソ|ラ|

Ⅴ:|シ|ド♯|レ|ミ ファ♯ ソ|

(Ⅰ:|ラ|)

ストリングスと離れた定位にきこえるチャイム系トーン?の純み渡る音色のリフレイン、その音数の短さと下行音形がカウンター(対比)になっています。美しく壮麗な仕掛けです。

ちなみにこの長大な息遣いで思い出すのは『A Day In The Life』。3:48頃〜4:18頃にかけてソワソワがせり上がる感覚です。

『A Day In The Life』の長大な上行は混沌と濁った緊張の響きですが、『雪が降る町』は安寧と秩序ある調和した上行の響きです。天(新年)に一歩ずつ着実にあゆみ寄っていく味わい。

コード進行の話

AメロのアタマでC♯m→F♯をくりかえすコードの風味が好きです。キーにとわられずにあらわすとⅦm→Ⅲ。Ⅲ(Ⅲ7)はⅥmのドミナントの和音です。Ⅶmもあいまいな響きが不安定。調の安定感をほどよく乱し、掻き回すソングライティングが絶妙。

サビ頭はⅠの和音でスコーンと安定感を取り戻します。このバランス感覚が特上の魅力です。Ⅰから、上声で主音を下降させてメジャーセブンス(長7)、セブンス(短7)、Ⅳと導くのはコード進行の見本市があれば必ず出展される定番のヒットソングテンプレです。

エンディングにサイレン

野球応援風環境音のオープニングに対し、エンディングも環境音。緊急車両のサイレンの音?が目立ってきこえます。ですがフェードアウトしていく最中で、幽かです。mvではかなりはっきりとした環境音、雑踏の音や人声が聴きとれました。原音は同じなのでしょうか。

アタマとおしりを「音の空間演出」ではさんだ構成がきれいです。「演奏、歌(作品)」を、社会・世間といった額縁(アタマとおしりの環境音)に納めた意匠に思えます。こういうところが、ユニコーンの表現の大衆性を獲得する妙味の一端かもしれません。

歌詞

“人も車も へり始めてる 年末だから ああ”(『雪が降る町』より、作詞・作曲:奥田民生)

都市に住んでいる人が地方に帰ると、都市は人の姿がすくなくなります。人が運転する車の姿も当然少なくなるでしょう。車は運転されて地方にいってしまうか、どこかの車庫や駐車場におさまっているであろうから動いている姿が目につきにくくなります。結果、消えてなくなったわけではないのに、「へる」のです。

人の集中する町で普段住んだり働いたりしていると、年末のちょっと特別な時期にはその時期なりの変化があらわれるのが観察できます。それらの匂いを感じ取り、私は年末の雰囲気を喫するのだと思います。

“だからキライだよ こんな日に出かけるの 人がやたら歩いてて 用もないのに”(『雪が降る町』より、作詞・作曲:奥田民生)

人の集中するところを歩くのが私も嫌いです。極力避けます(対策として、自転車移動をよくします)。

ほんとうに年の暮れになってしまうと、都市は、田舎に帰る人がふえて人がすくなくなるのかもしれません。

でも、わずか数日、大晦日よりも少し早い時期にはクリスマスがあります。

「用もない」は、仕事としての強制力や、ほかなんらかの使命や緊張を伴わないことの表現とみるのも良いでしょう。そういう、必須の(?)用事で動く人は減り、余暇を謳歌する人の姿が増える……普遍的で、共感しやすい光景ではないでしょうか。

クリスマス(12月25日)が過ぎると、年内の仕事をおさめた人が増えたり、年末年始を過ごすための食糧や雑貨を買い求める人の姿が街に増えると思います。そのテの外出を済ませて、「年内」も本当に残りわずかになると、物資を持って田舎に帰る人が増え、都市は人も減る……とする仮説も立つかもしれません。

あるいは、そのまま都市にいつづけて、おのおのの家庭や自室で、買い出しの成果物を消費する人も多いでしょう。外は寒いし、物資・食糧もそろっている……やっぱり、町は人の姿も減るのでしょう。

神社などは、年越しの前後に急に人があふれたりしそうですけどね。

“僕らの町に今年も雪が降る 見慣れた町に 白い雪が つもるつもる あと何日かで 今年も終わるから たまには二人でじゃま者なしで 少し話して のんびりして”(『雪が降る町』より、作詞・作曲:奥田民生)

雪が積もろうものなら、なおさら外出しない理屈は万全になります。

忙しく機能する都市の歯車を離れて、ようやく、少しゆっくり、大切な人と話ができる。そんな時間を持つ余裕を得やすいのが、年末年始です……切実な世。

“今年は久しぶり 田舎に帰るから 彼女になんか土産でも どんなもんかな”(『雪が降る町』より、作詞・作曲:奥田民生)

Aメロに戻りますが、「彼女」とは誰でしょう。普段は離れている、主人公と同じ故郷に拠点をおく親しい女性か。恋人やそれ未満の非血縁者でもいいですが、オカンと解釈するのもおもしろいです。都会のオシャン(おしゃれ)なオミヤ(おみやげ)を、地方住みの実家のオカンにあげるのです。

あるいは都市で出会った彼女(恋人、仲のよい人)が主人公にはいるのかもしれません。年末ばかりは数日間しばし離れ、それぞれの出身地に帰ったり、年によっては一方だけが都会に居残ったりするのかもしれません。その場合は、田舎に帰った際は、自分の地元の名物(お土産)をゲットしておいて、都市に戻ってパートナーに会ったときに田舎土産をあげる……というストーリーも立つのではないでしょうか。

後記

メロのコード進行がスパイシー、サビは堂々。バンドのアレンジメントもいわずもがな抜群。奥田民生ボーカルのパワーもいわずもがな。メロディの生命感と躍動でジングルベルも震えます。年末ソングで、クリスマスと年越し近辺をおおう守備範囲の広さが、ある種の庶民にとっての親近感。ただのクリスマスソングよりも、より私の日常に添ってくれる主題の面積が妙です。高校生の頃から好きだった曲。

青沼詩郎

UNICORN 公式サイトへのリンク

『雪が降る町』を収録した『THE VERY BEST OF UNICORN』(1993)

『雪が降る町』を収録した『Quarter Century Single Best』(2012)。ユニコーン公式サイトより、“デビュー25周年記念リマスターシングルベスト!”との旨。

『雪が降る町』を聴いて私が連想したThe Beatles『With A Little Help From My Friends』、『A Day In The Life』を収録した『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』(1967)

『雪が降る町』を聴いて私が連想したThe Beatles『All You Need Is Love』を収録した『Magical Mystery Tour』(1967)

ご笑覧ください 拙演