『マリーゴールド』のYouTube再生回数が2億回を突破したあいみょん。
あまりにその名をよく聞くものだから私も重い腰をあげて初めてあいみょんを聴いたのが2年前の秋だったか。中性的な声の芯、その太さ・強さが印象に残っていた。『マリーゴールド』のシングルが2018年。『マリーゴールド』を収録したアルバム『瞬間的シックスセンス』が2019年。
私は5月のなかばにこの音楽ブログを始めた。それから、音楽との距離がより近くなった。あいみょんのことを意識するのは自然というか必然だったかもしれない。あらためてその存在を意識したきっかけは、小山田壮平だった。
小山田壮平はandymoriというバンドをやった。このバンドに多くの人が熱狂した。私もその1人だった。
あいみょんもandymoriに影響を受けた一人だとネットで知る。そのときの出典がどれだったか埋もれて分からなくなってしまったけれど、もうすでにいろんなところに書いてあって知られていることかもしれない。あいみょんの声が中性的に感じたけれど、それは歌声に限ったことじゃない。歌詞や音楽についても、性別を越えた筋がとおっている。その筋をこちらが迎え入れたくなる筋である。あんたの筋、俺も通しちゃる。そう思わせる。
あいみょんのこの「筋」は浜田省吾の影響もあるという。これもネットで見たことで、根拠があいまいだからここではあまり掘り下げないことにしておく。
andymoriからの影響についていえば、彼女は『瞬間的シックスセンス』に『夢追いベンガル』という曲を収録していることから伺い知れる。andymoriに『ベンガルトラとウィスキー』という曲があって、EP『アンディとロックとベンガルトラとウィスキー』、アルバム『andymori』に収録されている。あいみょんの『夢追いベンガル』はandymoriの特徴でもあるこんこんと降り注ぐドラムスの雨あられを感じるアレンジメントになっているから、私が聴くにその影響は明らかだった。
あいみょん周りのことを探ったり知ったり味わったりしてから聴いたラジオ『小山田壮平のMUSIC FREAKS りたーんず』(FM802、2020年8月23日)は興味深くおもしろかった。リモートトークゲストの1人はあいみょん。関西圏だか福岡の地元のお店についての話で2人が盛り上がっていたのを憶えている。あいみょんと小山田壮平間の敬意の交わし合いもみられた。この番組を聴きたくて私はアジオアプリのradikoプレミアムに加入したくらいだ(それからは地域を気にせず全国のラジオをアプリで楽しんでいる。全国のラジオが聴けるのがプレミアムメンバーのメリット)。小山田壮平は先月アルバム『THE TRAVELING LIFE』を出した。各ゲストにアルバム内の曲をリクエストしてもらいつつトークを交わし、曲をプレイする主旨だった。ゲストには私の特に敬愛する岸田繁(くるり)も含まれていた。あいみょんがリクエストしたのは映画『#ハンド全力』主題歌として制作された『OH MY GOD』。アルバム中、デジタル・シングルとして先駆けて発表された私も大好きな曲だ。
あいみょんは9月9日にアルバム『おいしいパスタがあると聞いて』を出した。これを聴いていきたい。
『黄昏にバカ話をしたあの日を思い出す時を』
金(money)と鐘(bell)を歌詞に。音韻を合わせつつ違った意味の単語を近くに登場させる作詞テクニックを見せる。愛、金、余裕のある・なし。対比のきいた言葉・表現がならぶ
人生において、「こっちへおいで」といわんばかりにどこからか、いや、明らかに聴こえてくる鐘。それは私を流そうとしてくる社会のあらゆる誘惑の象徴かもしれない。型にはまったライフスタイル? それを提案し、巻き込み、利用せんとする種々のあらゆるビジネス?
そうしたものを忌み、拒めということではない。ただ、あいみょんは自分の「筋」を行くだろう。私もそうしたいと思う。そのとき、いつも道具としての「金」が必須のほうに行く必要もない。「鐘」が鳴る方向を目指す必要もない。
ではどこに向かいたいか? そう問われたとき、私(あるいはあいみょん)の鼻の頭あたりを赤く燃やし照らすのが「黄昏」。筋をいく大道芸のように楽しく。ストリート・ミュージックのようにささやかに。街の背景に溶け込みつつも歌う、主人公の「私」がそこにいる。
部屋で1人で歌っているかのような音質で裸の弾き語りになって曲は結ぶ。黄昏の方向にあるものを体現しているし、それは私が目指すものともぴしゃりと重なっている。そちらは、ほの明るく暖かい。
アルバムの方向を予感させる1曲目。私はこれを歓んで迎え入れている。はじまりの一曲でありながら、たとえばライブの最後に聴いてみたいとも思う。黄昏は、始まりと終わりが重なる不思議な一瞬だ。
青沼詩郎
あいみょん オフィシャルサイト
https://www.aimyong.net/