愛の言霊 〜Spiritual Message〜 サザンオールスターズ 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:桑田佳祐。サザンオールスターズのシングル、アルバム『Young Love』(1996)に収録。
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おそろしく雑食です。演奏時間3分を目前にして2コーラスを消化したところでフェードして終ってもじゅうぶんポップソングとしての1曲の器を満たして思えるのですが、そこからがこの曲のおそろしさの本領発揮。謎言語(インドネシア語だそう)のラップはまるで異時空から混信してしまった救命のラジオボイス。桑田さんのスキャットは短編小説に封じ込められた永遠に閉店しないミュージックバーの箱バンドのフロントマン。マイクを覆い、跳ね、暴れ、舞いまくります。間奏の4ビートジャズっぽい展開は生演奏の肉肉しさを前面に出す手段もあったと思うのですが、あえてなのか人工的な打ち込みっぽいサウンドのルーラーを敷いている感じでこの楽曲特有の奇妙な雑食性を私になおさら強調して訴えます。ライドシンバルの渋いサスティンが光るのは私の脳内の幻聴か。キーボードプレイも桑田さんのスキャットに呼応し、即興的に激しく狂い咲きます。
ア・ソーレ、えんやこーら、ライ! これはどこの文化なのか。夏まつりのときだけ人であふれる片田舎の草地の盆踊りにも思えるし、溢れたビールを粗っぽくモップで拭いたあとの生乾き臭が低周波の拍動に沿って揺れる体温にマスクされる無機質なダンスフロアにも思えます。4つ打ちのキックが恒常的で、重みがあって、確実で支配的です。ラテンパーカスやナイロン弦の竿もの楽器がキックの規則正しい目盛りの上で情熱のダンスを支えます。
間奏は情熱のダンスといいたくなる華やかさ、熱さ、雑多さがあるのですが、サビ:コーラスがそれに対比するかのように、冷徹で平静です。真ん中のメインボーカルの輪郭を強く打ち出すというより、両サイドから声をあわせて呪文をお経のようにとなえるボーカルが沸き上がってきて新興宗教の儀礼のような不気味さを覚えさせるくらいにクール(カッコイイの意)です。
役割の固定された生楽器パートを堅実に合わせてひとつの楽曲を構築することは、バンド形式の集団で音楽を創出する実直な基本だと思うのですが、こうも雑多な種類の音がおせちを中心にしたお正月の親族の大集合パーティの卓上のようにに並んでいると、もはや一人ひとりのメンバーの役割がどうの、線引きや境界がどうのという私の認知欲を、まあまあたんと召し上がってくださいよといわんばかりに矢継ぎ早にお酌される祝酒がぼやかしてしまいます(あれ? 俺の取り皿どれだっけ……ま、いいかコレ食おう)。サザンはミュージシャンでなくマジシャンだったとしても有能なパフォーマーであるに違いないし、違法行為を生業とする詐欺師であったらその術中にはまる被害者の数と被害の深さを思うとぞっとするほどの振れ幅と魔性です。多様なサウンドや語彙をコラージュしつつ一つの額縁(単位としての楽曲)におさめる理知と狂気の重ね合わせ、透かし合わせの妙技の見事さに閉口するばかりです。スケベ大魔王ですよもう(称賛の意)。頭を下げつつも目線を必死に上に向けその仕事ぶりを脳裡に焼き付け盗むべし。
青沼詩郎
参考Wikipedia>愛の言霊 〜Spiritual Message〜
参考歌詞サイト 歌ネット>愛の言霊 〜Spiritual Message〜
『愛の言霊 〜Spiritual Message〜』を収録したサザンオールスターズのアルバム『Young Love』(1996)