分かっている(I know)……
ナチュラルマイナーの鎮痛なフィーリング、純度。ストリングスが清廉潔白。シンプルな楽曲構造。中間部のノン・コードの「I know」の移勢の連続が大仰。わかっている、わかっている……理屈は理解しているが、感情がそれを無視してわさわさしている様子がシンプルな構造に起伏をもたらします。
ボーカルがグルーヴをリード。オケはのぺっとむしろ平静、スカした態度に思えるほどです。ビル・ウィザースの代表曲といえばLovely Dayを思い出します。それからコード進行の典型としてよく名前が上がるグローヴァー・ワシントン・ジュニアの『Just the Two of Us』にボーカル参加しているのもビル・ウィザースです。
ビル・ウィザースの写真を検索すると太陽のような満面の笑みをたずさえた画像に多く出会います。そんな彼が『消えゆく太陽(Ain’t No Sunshine)』を唄うギャップはあくまで楽曲に付随する外在的イメージかもしれませんが、愛嬌あふれる人格に由来する豊かな音楽性や感情の振れ幅の一端に杭を打つのが本曲なのかもしれません。
Ain’t No Sunshine 消えゆく太陽 Bill Withers 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:Bill Withers。Bill Withersのシングル、アルバム『Just As I Am』(1971)に収録。
Bill Withers Ain’t No Sunshine(アルバム『Just As I Am』収録)を聴く
バーーン、バーン・バーン・バーーン……と、2分音符と4部音符を組み合わせたおおまたぎなリズムが伴奏の主たるパターンになっています。ベースやストリングスのストロークがおおむねこの形で協調しており、このゆったりとしたテンポをビルの哀愁ある影のさしたアーシーでスモーキーな歌声が分割しグルーヴ・ノリを醸し出します。アコギの落ち着いたトーンの伴奏が原点にある感じで、それにオケ、それから物静かなピアノのストロークもついてきます。
アコギを弾きながら木の床を踏み鳴らしたのか、あるいは何かしらの構造物や木の箱なんかを叩いたのか知りませんが、コツ、コツ……という衝突音が4分のリズムをとっています。スタジオが木の床なのかしりませんが、この響きのある「コツッ」という音の鳴る部屋で歌を録音するなんて目がきらめく環境です。収録場所の性格が出る録音物が私は好きです。ビルのボーカルにはリッチなリバーブがかかっています。これはスプリングリバーブなのか、なにかしら物理的なアナログ機材を通したのでしょうか。
中間部のI knowの連続が実に密です。分かっている、分かっているんだと自分に言い聞かすのですがまるで分かっていない人格が同居しているみたいに、必死にそいつを抑え込むみたいにボーカルのみでリズムを敷き詰めます。
歌詞や表題から察する曲の精神的支柱は絶望感です。しめっぽく暗くじっとりとした感情を察知するのですが、その闇や湿度が純粋なあまり、かえって反転した輝きがあるのではないかと思わせるのがビルの歌声の天性なのかもしれません。
ビルにこの曲を書くためのインスパイアを与えたのが1962年の映画『Days of Wine and Roses(酒とバラの日々)だそうです。アルコール中毒の夫婦が描かれる作品だそう。近々、鑑賞してみたいです。
マイケル・ジャクソンのカバーがある(アルバム『Got to Be There』収録)
うら若き(誕生年から察するに13歳くらいの頃の歌声ではないでしょうか)マイケル・ジャクソンによるカバーがあります。せりふの長めのイントロからはじまり、転調を含めドラマティックでしっかりとしたサイズの曲にアレンジされています。中間部の「I know」のところも和声とリズムのキメがついておりゴージャスな印象です。
青沼詩郎
参考Wikipedia>消えゆく太陽、ビル・ウィザース、Just as I Am (Bill Withers album)、本曲のプロデューサー:ブッカー・T・ジョーンズ
本曲はローリング・ストーンによるオールタイム・グレイテスト・ソング500(2010年版)の285位だそうです。リスニングの新たな出会いにチラ見してみてください。
参考歌詞サイト Genius>Ain’t No Sunshine
BillWithers.com – The Official Site of Bill Withers Musicへのリンク
『Ain’t No Sunshine』を収録したBill Withersのアルバム『Just As I Am』(1971)