侘しさ映る心の穴

“あなた夢のように死んでしまったの”と直接的な言葉を用いて死を描写しますが、恋人関係の死別というより何かもっと純粋な親密さで結ばれた仲における死別を私は勝手に感じたのです。

ソングライティング(作詞)は沢ちひろさんによるもので、実のお母様との死別が本曲の作詞の題材として暗に存在しているようです。

サビの上の音域に抜ける1音の声色に特長があり耳に残ります。セクションのバリエーションはA、A’(各8小節)、B(5小節)、サビ(6小節+2小節)。ほぼ6小節で歌詞のある部分が結んでしまい、残り2小節の間がつきます。その2小節の空白に、会いたい侘しさ、心のぽっかりとあいた穴が映り込んでいる感じがして胸がしめつけられる想いです。同音連打などが多くメロディの動きは比較的親やすい平易さもあります。必要十分なコンパクトなイントロとアウトロがつき、転調を迎える間奏がつき、しっとり・十分な粘度のあるテンポで進む楽曲はサイズ・ボリューム感もたっぷりです。

間奏の転調がちょっとスっとする独特の清涼があります。オリジナルキーがG♭(F#)で、サックスソロの間奏での転調先はAメージャー。短3度上の調です。

意外だったのが作曲者が財津和夫さん。いわれてみれば感もありますが、編曲者の芳野藤丸さんの手が入っている部分も大きいそうです(芳野さんが所属するバンドSHŌGUN『男達のメロディー』かっこよくて好きなので聴いてみてください)。

会いたい 澤田知可子 曲の名義、発表の概要

作詞:沢ちひろ、作曲:財津和夫。編曲:芳野藤丸。澤田知可子のシングル、アルバム『I miss you』(1990)に収録。

澤田知可子 会いたいを聴く

明瞭なサウンドに前後感、立体感があります。美麗。キックのドチっというアタックの質感がゆったりとしたテンポのなかで他パートとかぶることなく棲み分かれます。儚げなシンセの鍵盤系のサウンドでしょうか、ハープシコードの音色などを合わせてもよく合う気がします。

澤田さんの歌声は絹をなでるような質感のメロ、サビで張り上げる緊張感をこさえたかと思えば、今年も海へ行くっ「て」のところですっと上の声種にジャンプして抜けるような歌唱が非常に印象的で、この一瞬だけを胸に楽曲の記憶が私の引き出しのなかに幅をもって位置どるほどです。歌詞のシンクロによるハーモニーづけがなく、アーとかウー系のバックグラウンドのボーカルトラックはあれど、基本、ボーカルトラックが単一なのを貫徹していてさびしさ、孤独感の強さを意匠します。

最後のサビをリフレインするときに、リードボーカルトラックがわずかに重なるところがあるんです。ここばかりはトラックを分けて録る必要があります。ライブではどのように演奏するのでしょう。思考の一連の流れがあっても、急にあなたのことを思い出し、猛烈にほかのことが考えられなくなるくらいに意識を覆ってしまう……そんな演出意図を感じますがどうでしょう。

間奏で転調したあと、すぐさま長い2度下がる(AコードからGコードへ)など、転調先の調にどっかりと座るでもない、わさわさした心の動きを表現するコードの運びを背景にした色っぽくジェントルなサックスソロが千金です。

純白すぎるまでの恋しさわびしさが、なんとなく私に「恋愛以上の、博愛の仲」を思い起こさせるので、人どうし意外にも、ペットを亡くした悲しみとかが映り込む気がしたのですけれど、さすがに「映画に一緒にいく」はなさそうな感じもします。でも、青空のもと、駐車して車から見るスタイルの(いつかの洋画のなかのワンシーンでみたことのあるような……)ああいう上映スタイルならペットと一緒に映画を見に行くという光景も成り立たないでもない気もします……少し個人的な妄想に走りすぎたかな?

悲痛なのですけれど、さいごにはふわっと空に手のひらを向けて、あなたが残した抜けたひとひらの羽毛を風に乗せてそっとさよならをつぶやく唇が声もなく少しだけ動く……みたいなせつなさと後味の軽さが、楽曲のボリューム感と両立していて絶妙です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>会いたい (沢田知可子の曲)

参考歌詞サイト 歌ネット>会いたい

澤田知可子オフィシャルウェブサイトへのリンク

『会いたい』を収録した澤田知可子のアルバム『I miss you』(1990)