秋のバラード 荒木一郎 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:荒木一郎。荒木一郎のアルバム『蹉跌』(1974)に収録。
荒木一郎 秋のバラードを聴く
こんなオトナになりたいです。全パート、全員肩の力が抜けています。さらっとしていて、距離感が適切です。粘着せず、気の利いた洒落をいい、小1時間バーで居合せて、電話がかかってきてさっとじゃあまた、と言って去ってしまう紳士みたいな曲です。
イントロから何がはじまるのかという、ほろほろと砂の記憶が崩れ落ちるようなピアノが流麗。
カツっときれの短いドライなドラムがタイトで印象づけるタムのピッチが意外と高くアクセントになっています。ドラムのハイハットの分割とベースの器の広いストロークが音楽を運びます。
間奏のトランペットがまた私をメロメロにします。トロトロ。リズムのタメで振り回す魔性です。肩の力が抜けているが服はきれいなジャケットとしわのないパンツ、でもノーネクタイでリラックス、みたいな格好を思わせるトランペットです。寝起きにそのまま出てきたみたいなTシャツと短パンの音じゃないです(そういうトランペッターもいるでしょうけれど)。私はコルネットの音が好きなのですが、コルネットの音を思い出させるような、質感に渋みのあるオツなトランペットです。
愛されたくて つくしたすべて
いつのまにか 何もなくなっていた
けれど心は 青空のように
何故か 悲しみさえ澄みわたる
一人で唄う 秋のバラード
『秋のバラード』より、作詞:荒木一郎
夏は雲の季節。冬は空の季節。秋はその間という気がします。空は空間です。何もないはずなのに、何か色々見える。何もないはずなのに青色にみえる。ああ、おれの悲しみの色なんだと……(浸りすぎ?)。冬に向けて寒さも沁み渡って来ます……(悪寒じゃないよね?)。
ある日気付いたら あなたはそこに
何故か ほほえみさえ冷たくて
一人で唄う 秋のバラード
『秋のバラード』より、作詞:荒木一郎
ちょっと故人のことを想ったのかなと想像すると、私は何をくだらない妄想に浸っていたのだろうとハッとします。
もちろん、さばさばした大人の関係が、下降する気温と冬に向けて移ろう季節と同調した、それをさらっと投影しただけのかろみのある描写だとも読めるのですが。
あまり重厚に深読みすることもない。荒木さんの音楽や歌唱にはそういうさらっとした、粘着しない快よさがあります。いつも彼の音楽を聴くと思うことです。
青沼詩郎
『秋のバラード』を収録した荒木一郎のアルバム『蹉跌』(1974)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『秋のバラード(荒木一郎の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)