途方もない解像度の音楽です。楽器、アレンジ・演奏が見せる場面ごとの景色の移ろい。壮麗な映画をみている気分にさせます。
堅牢な構造・骨格に表面的な装飾を施していったような質量感とは違います。仔細なパーツ一つひとつも重要な伏線を担っており、ひとつをつまんで引っ張ったらすべてがするすると解けていき、何もなかったように霧散してしまうような儚さ。緻密で繊細です。
小田和正さんの歌声の神々しさ。今に始まったことではないでしょうが、あらためてこうして1977年のこの作品を聴いて実感します。ダブリングのサウンド、ピタリと沿った綿密な線の奥行き。同じメインボーカルパートを2回繰り返して歌うのを収録したのでしょうか。ボーカルが上手い人にも色々いて、まったくブレずに同じことを繰り返せる人もいれば、二度と似通ったテイクを録る事のない、毎回見事に違ったパフォーマンスを発揮する人もいるそうですが……小田さんがどっちかといわれたら私にはわかりません(なんなら両方いけるのではないか)。BGV(バック・グラウンドボーカル)、字ハモもまっすぐで繊細で柔和。お見事です。
ドラムスのダイナミクスがまた良いですね。ちょっとフェイクっぽくロールを穏やかに挟む一瞬。はっとします。コーラスはダウンビートですが、躍動する「楽しさ」「娯楽性」を先導するダウンビートではなく、儚く、散ってしまいそうなエモーション、駆け抜けて消えてしまいそうな秋の脆弱さをスピード感をもって表現しています。
ドラムスの手綱とりが繊細なのもあって、ベースが映えます。確かなリズムの先導、の意味ではベースの方に分があるバランス感かと思います。音量的にしゃしゃり出ることはなく、ボーカルの神々しい繊細さをささえる絶妙な塩梅で、確かにビートを先導しています。
全体にいえるのはこの神々しいほどのバランス感、塩梅の秀逸さ。私は何度「神々しい」などと安直に言い放ってしまったことか。
パーカッション小物もまた快い線を添えています。私の好物、トライアングルも煌びやかで小さく光ります。コプコプコプコプ……とはじけるような衝突するような愛嬌ある短い音を断続的に添えるパートはなんでしょう、ラテンパーカスとも違うような……小さな太鼓類なのか判じかねます。
ギターのナイロン系の優美な手触り、スティールの線の細い儚い感じ。エレキギターはヴァイオリン奏法でしょうか?音量をゆらめかせ、アタックの気配を薄めて浮遊します。
ストリングスが前面にしゃしゃり出るのでなく、品の良さ、ここでも塩梅の絶妙さを思います。ときに日本の大衆音楽、ポップソングにおいてストリングスを使用することは一種の「はんこ」みたいに機能するおそれがあります。あえて「おそれ」と書きました。ハイ、こういうスタイルの、こういう音楽なんですね、わかりやすく、わかりやすいメッセージ・感情を、たった一つの方向に向かってのみブーストする役割なんですね……と、ひねくれた私に解釈させる類のストリングスをよくも悪くもJPOP界隈が量産する楽曲群に見出すことはたやすいでしょうが、これほどに均整と空気を読む、リテラシーとコミュ力に長けたストリングスを私はどれほどほかで聴いた経験があるかわかりません。すばらしいもので、ここでもまた「塩梅のよさ」みたいなものを繰り返し強調して賛辞したいところです。これみよがしな感動を誘おうとするストリングスでない、というところ。実に音楽的です。
感情の解釈を、こちらに委ねてくれる塩梅なのです。歌詞を緻密に手に取ってみてもそうでしょう。オフコース、小田和正さんのソングライティングの、もっとも目をみはるべき面のひとつだと思います。それを象徴したタイトル(主題)、『秋の気配』。「気配」を主題にしているのです。もう見事としかいいようがありません……といいつつ、「見事」の一言では済ませられずに……長く連ねた駄文を最後まで読んでくださってありがとうございます。
青沼詩郎
オフコース | OFF COURSE – UNIVERSAL MUSIC JAPAN へのリンク
『秋の気配』を収録したオフコースのアルバム『JUNKTION』(1977)
ご笑覧ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『秋の気配(オフコースの曲)ギター弾き語り』)