まえがき

撫でるような嘆きを浮かべるようなソフトな息遣いから、マイクが歪まんばかりの濃ゆいパワーが、クリーンなエレキギター、アタックのやさしいエレクトリックピアノの耳あたりの丸い洗練されたサウンドにジャストフィット。

一方向への解釈の固定をはぐらかすような、含蓄のある作詞がかえって大衆に向けた「たった一人」の心の奥底を針先でピンポイントに刺すような鋭さがあり、同時に博愛を感じもします。

リズムの鋭い、かつ滑らかな16ビートのグルーヴのボーカル、コンパクトな編成のベーシックの演奏・サウンドが卓越した傑作。

Alison Elvis Costello 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Elvis Costello。Elvis Costelloのアルバム『My Aim is True』(1977)に収録。

Elvis Costello Alisonを聴く

各パートの音像一つひとつが洗練されきっています。恐怖を覚えるほど美しい録音と演奏です。輪郭がはっきりと視えます。それでいて一つひとつの音が豊か。

ウワモノの打点が少ないんです。非常に発音のタイミングをよく絞ってある。エレクトリックピアノのストロークなんて、小節のアタマにぽぅんと和音を置いてそれっきりだったりあるいは2拍目ウラにストロークするところもあったりするかもしれませんが落ち着きに満ちている……矛盾しているかのような観念が同時成立する奇跡よ。

エレクトリックピアノの音色が丸いぶん、エレキギターはちゅるちゅるとなめらかで光りを放つサウンドです。しかしやはり耳ざわりは精巧な飴細工を扱うかのようにソフトです。小節アタマで和音を置くのはほとんどエレピに任せて、エレキギターはボーカルフレーズのおしり寄りにカウンターやオブリをかむせる動き。右と左のエレキとエレピの発音のタイミングのすみわけが美麗です。

こうした、カームで上品な左右のウワモノをグラマラスなベースが引き立てます。あるいはその逆、沈静兄弟が地盤のシズル感を強調するのです。このベースサウンド、ライン録りの音もうまく混ざっているのかなんなのか、非常にタッチが生々しく輪郭が極めて高解像度です。どんな手法で録ったのか。16分割のグルーヴでよく動くフレージングを多用します。ボーカルもウワモノもしっとりと聴かせるなかで、実はいちばんヤンチャに天真爛漫に高らかに歌いまわっているのはこのベースではないか。

たすっ!と衝突と一瞬の埃がはじけるタイトなタイム感あるスネアの音が印象的なドラムの演奏・サウンドもまた、ソファに深く沈んでいられるようなウワモノの落ち着きを保証します。このリズムの精密さがあるから安心して時間が流れるのです。ゆったりとした流れのなかに唐突に杭を打つバンドの息のあったブレイクやキメが、優雅ななかにもしゃんと背筋の通った聴き味をもたらします。

このおそろしく精緻で美麗な録音芸術、プロデュースはニック・ロウ(Nick Lowe)だそう。

Alisonはスーパーマーケットの従業員がモデルになっているとかいう話があります。だれだかしらないし、接点が濃ゆいとも限らない数多の他人がすれ違いながらそれぞれに時間が流れる中に接点を持つ奇跡がうれしく思える。それをそうといわずにそう思わせることがソングライティングの醍醐味だと”Alison”は教えてくれます。

青沼詩郎

参考Wikipedia>アリソン (曲)マイ・エイム・イズ・トゥルー

参考歌詞サイト JOYSOUND>Alison

ElvisCostello.com | The Official Website of Elvis Costelloへのリンク

エルヴィス・コステロとT・ボーン・バーネットによる“カワード・ブラザーズ(The Coward Brothers)”が39年ぶりに新作を出したのが2024年11月、国内版が翌年3月に出ています。

参考リンク HMV & BOOKS Online

『Alison』を収録したElvis Costelloのアルバム『My Aim is True』(1977)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】どこのどなたかしらないあなたへ 『Alison(Elvis Costelloの曲)』ギター弾き語り』)