青春の曲
くるりを高校生の頃(私が2002~2005年頃)に知って好きになり、当時から好きな曲。
飴色の部屋 くるり 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:岸田繁。くるりのアルバム『ジョゼと虎と魚たち オリジナル・サウンドトラック』(2003)収録。
くるり 飴色の部屋(『ジョゼと虎と魚たち オリジナル・サウンドトラック』収録)を聴く
“部屋の明かりは消えかけた街灯みたいに飴色に染まってく”(くるり『飴色の部屋』より、作詞:岸田繁)あらためて主題が耽美です。セカンドヴァースで“西日で灼けた心”とも歌っていますから夕暮れどきあるいは夕暮れにさしかかるよりも前だがもう一日の終わり(日暮れ)が目先に迫っているという儚さが香ります。
日が傾き西日が差すような時刻に、部屋にいる。そんなシチュエーションはもちろん無限に等しいくらいあるでしょう。しかし、どこか出かけた先から日暮れとともに部屋に戻るのと、部屋にいたまま日暮れを迎えてしまうのでは主観的な趣がまったく違います。
もちろん『飴色の部屋』は、ずっと部屋にいて西日を知覚したのか、いましがた帰ってきた時刻がもうすでに西日タイムなのかどうかまでは限定していません。私の想像を許す余白が多いです。そこが気持ちが良い。
ギターなどの弦もの楽器のポテンシャルを引き出すEメージャーの開放的な響き。指で引っ掛けて装飾をつける(ハンマリングオン・プリングオフ)ようなフレーズで印象づけるギター。編成にギターやベースが組み込まれる、それらの楽器の特性を活かすことで生まれる音楽性だと思います。
左右をつつむようにちゃきちゃきとアコギの音。エレキの音が空間に向けて芽吹くように影や光を落とします。指がぶつかる衝撃までも生生しく記録したベースプレイが私の視線を釘付けにします。硬質でガッツあるサウンドはあらきゆうこさんのプレイ、高い声がBGVに入っていますがそれもあらきさん。サウンドにハナを咲かせます。左右に交互に忙しく振り分けて和音がフワフワと立ち上がっては引っ込むみたいな演出はギターの音をPANしてつくったのかどうかわかりません。横断歩道の点滅する信号機みたいです。
ハネたグルーヴ、トリプレットの躍動感。ウキウキを誘うリズムでもあるのでしょうが、ヴァースの和声はⅠやⅤなど音楽上の文章にはっきり句点を打つようなモーションがあまり見られず、フワフワとします。主人公はどこにいる? 心のいどころは? カメラを固定する場所を求めて、ウロウロとさまよっている気分になる私。
演奏時間0分49秒あたりになって、ようやくⅠの和声に落ち着く杭が打たれたかと思えばこれは何かの警鐘なのか。ここまでトリプレットのハネ感で来た秩序ですが、4小節目でディヴィジョンが偶数にかわり「四角っぽさ」「まっすぐ」「平ら」な印象のリズムに豹変しコーラスへと突入。「あぁ」の発声で響きをあらためて解き放ちます。12弦の竿物楽器なのか、歌詞に合いの手するモチーフの古楽器的な響きはどこの時空から混信したものか。
演奏時間1分32秒頃“ひとりぼっちにする”で、コーラス前に豹変させたリズムの秩序をあらためて革新。世界史のどこかに刻まれた、グラングランする混迷の世の中みたいです。また奇数分割のリズムに戻るのですが、ヴァースあたりの分割のフィールよりもより強調された奇数分割に感じます。1小節を12に分割すればいちばん細かいであろうところ、ハイハットが1小節を6つに割るプレイをみせます。右手一本で12分割をこのテンポで叩くのはしんどいですが、6つに割れば自然なフィールで演奏できるでしょう。かつグルーヴに独特な大またぎなネジれたフィールを与えます。
ギターソロが鋭いトーンで泣き上げ、私の心の喚き散らしを代弁するみたいです。ⅥmからⅣまで下行してはまた上げて……の和声の線路の上で、指が目をつぶったまま日常のルーティンをなぞるみたいに動きをつけていきます。動いているし切り刻んでいるのに、なめらかにつながり、保続しているみたいなギターソロもまた、くるりサウンドの「お印」的な魅力の一要素でしょう。
“さよならいつか夏になるだろう ひとりぼっちでゆく”(くるり『飴色の部屋』より、作詞:岸田繁)
「夏」など季節を示す直接の単語を入れ込むとその季節の歌だと短絡的に聴き手に思われてしまうかもしれませんが、それも書きようです。心のなかにはつねに四季がある。それを想起していれば、その歌のアイデンティティは特定の季節に縛られることはありません。
いつでも、めぐり来る次の季節(あるいは次の次の……)に思いをはせる部屋を私もあなたも持っている。飴色かもしれないし、雨色かもしれないね。
青沼詩郎
参考Wikipedia>ジョゼと虎と魚たち (サウンドトラック)
『飴色の部屋』を収録したくるりのアルバム『ジョゼと虎と魚たち オリジナル・サウンドトラック』(2003)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『飴色の部屋(くるりの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)