あなたにサラダ DREAMS COME TRUE 曲の名義、発表の概要
作詞:吉田美和、作曲・編曲:中村正人。DREAMS COME TRUEのアルバム『MILLION KISSES』(1991)に収録。
DREAMS COME TRUE あなたにサラダ(アルバム『MILLION KISSES』収録)を聴く
ある日の仕事帰りの働き盛りの女性、サラダをカレにつくってあげるの巻……こんな登場人物が本当にいそうなリアリティもありますし、なんだかライトなファッション性もある作風なせいなのかリアリティがある一方でドラマのようなフィクションっぽさもあります。テールランプで「あいしてる」? いや、やらんやろ、やってやれないこともないけれど……そんな現実と作り話の二重性みたいな塩梅とその愛嬌がドリカムの必殺必中の武器なのです。
シャッフルビートにのった吉田さんの歌唱がリズミカル。場面や状況を克明に、説明くさくなくすべすべとなめらかに描写していく歌詞は1拍3分割で縦横に使える字脚のスペースに奔放にまたがり、細かく前後します。
コントラバスの指弾き(ピチカート)をおもわせるベースのサウンド。中村さんによるプログラミングでしょうか。スッスシャッス……とかろやかなリズムトラックが協調します。
ストリングス、ポフーというフルートかリコーダーかピッコロのようなエアリード系。クラリネットのような木管、サックス、ベル系の金管……プログラミングっぽい音色がめまぐるしく入れ替わり出入りし、デパ地下を渡り歩いているような気分にさせ刻々と目を引きます。音数少なめに、シンプルな光景から始まってどんどん音場が豊かになっていく。
とりあえず仕事終わった。疲れたからあんまり大仰な料理はしたくないけれど出来上がったお惣菜をただ買ってそのまま食べるのもちょっと気分と違う。そうだサラダにしよう。何いれよっかな。どんな味にしようか……といった具体的な要素は売り場を歩きながら決める。そんな、思いつきとそれを具現化する詳細なアイディア・要素が場面転換・時間経過とともにどんどん豊かになっていく様子が音楽で表現されているように感じます(あるいはそこに至るための部分部分のおばちゃまとの抗争……笑)。楽しいですね。
あ・り・が・と・う〜〜と低く低く沈み込むエンディングのボーカル。安心しきってそのまま眠くなっちゃったみたい……と、一瞬ウトウトしたら眠気が晴れてゲンキになってしまいました。2ラウンド目に突入です……ということでエンディングかと思いきや後奏にたっぷりボリュームを割きます。サラダの手軽さのおかげで浮いた労力と時間をつかってワインパーティーでもはじまったみたい。メンバーによるものなのか、ガヤ(音程やリズムをとるともない人の声、しゃべり声)が入っています。
後奏にあらわれる種々の管楽器たちがイキイキとして、表現豊かです。本編はプログラミングっぽいコントロール・設計されきった音色に感じましたが、ひょっとして後奏の部分には生楽器をフィーチャーしているのでしょうか。仕事の終わる時間がそれぞれバラバラな友人・仲間たちがぽつりぽつり・ぞくぞくとアフターサラダパーティーに加わっていくようなサウンドスケープもまたファッション性がありますし都会的なイキフンで軽妙です。
ドリカムはクレソンである
歌詞のあるセクションの後半近くに、歌詞に英語でサラダの具材を列挙する展開があります。なじみがなくてひとつ私が気になったのがWater cressでした。検索してみると、オランダガラシ……? ああ、クレソンですね。やっとピンときました。牛肉炒めやステーキに合わせると美味しいですよね。日常的には私はほとんど食べませんが獲れるところではたくさん獲れる。急に友人や知人やご近所からのいただきもので大量にキッチンに舞い込むこともさもありなん。オシャレ野菜なイメージですが水のきれいなところでは「そのへん」に大量に生えていたりもします。ありふれている気もするし非日常な気もする。なんだかまるでドリカムの持つ、身近でフレンドリーなイメージとカッコ良いカリスマ感の両極の塩梅と重なる存在感。今日のわたし的に、ドリカムをひとことで野菜で言い表すとクレソン、という結論に至りました。サラダ食べたい。
青沼詩郎
『あなたにサラダ』を収録したDREAMS COME TRUEのアルバム『MILLION KISSES』(1991)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『あなたにサラダ(DREAMS COME TRUEの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)