籠の中の自己実現

遠藤京子さんと筒美京平さんの共作名義、月代京兵作品。アルバム『夢見るスター』に収録されている、肩肘張らない、カジュアルな雰囲気がおしゃれなアルバム曲らしい楽曲です。シングル曲のような独立した派手さはないですが、むしろそうした方向性のネガポジを反転したような、アルバム曲だからこその際立つ不可侵な光の輪郭を感じる愛らしい楽曲です。

その愛らしさの根源になるのはカナリヤというモチーフにもよるところでしょうか。愛玩動物としての認識が現代人には強いかもしれません。カナリヤ諸島というのがヨーロッパの西部にあり、実際にそのあたりの原産の種の鳥であるようです。そこから、飼育を想定した品種などが多様に生まれたようでしょうか。

愛られることで、心のなかの幸せと自由を勝ち取ることを生まれついての使命とされた存在、とでもいうような儚さと可憐さが楽曲からも匂ってきます。同時にどこか哀しく哀れでもあるような、一縷の光ならぬ陰もさしているようなわずかな光陰の塩梅が妙味です。

あなたのカナリヤ 遠藤京子 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:月代京兵。遠藤京子のアルバム『夢見るスター』(1985)に収録。

遠藤京子 あなたのカナリヤ(アルバム『夢みるスター』収録)を聴く

歌が儚いのです。とてもタッチが軽い。願いの質量みたいです。実態がない。ここ(あたま)、ここ(ムネ)のなかから消えてしまったら何も残らない。せめて自分だけが見る日記にひとことでもふたことでもその形跡があればひっそりと残る程度の淡さ、可憐さを感じる歌唱が絶妙です。

このリードボーカルを包む管楽器がまた絶妙。フルートのオブリガードは籠のなかの鳥のよう。あるいは木立のあいだを行き交う森の鳥でしょうか。ダブルになっているような音像を感じさせる部分もあります。鳥のつがいかしら。

リードボーカル、フルート、を囲うようなあたたかな中低域を支える金管楽器がジェントルです。パ、パパパパ……と、リードボーカルが「あいやぃぁいあい……」と言葉にならない感情を歌うところの休符をきかせた決めが楽曲に淡く儚いだけでないパリっとした印象をもたらします。

とてもミュートのきいた、ポコポコいう弦ものの楽器はギターのブリッジミュート奏法か何かなのか。なんだか、竹の筒を叩く音程のある打楽器みたいなフィールもある不思議な音色です。

ボンゴなのか、カッカッカ、ポコ……と短い歯切れのよい音が常にかろやかにリズムの調子をとるのですが、ウッドブロックみたいな短く乾いた音でボンゴなのかなんなのか正直よくわかりません。両方入っているのかな。トライアングルなど、打楽器小物もこの楽曲のかろやかな印象をつくる重要な因子になっています。

メロディも歌詞もアレンジもみんなすごくきれいなんだけど、飼ってるカナリヤに、「ねぇ、きのう私が君に向かって言っただいじな言葉、なんだったか覚えてる?」と問いかけたら、首をかしげられてしまいそうな、そんなはかなさと、やれやれしょうがないな。きみはカナリヤだもんね。という前向きなあきらめが漂うような気味のよさがあります。

青沼詩郎

参考Wikipedia>遠藤響子

参考歌詞サイト 歌ネット>あなたのカナリヤ

遠藤響子 公式サイトへのリンク

『あなたのカナリヤ』を収録した遠藤京子のアルバム『夢見るスター』(1985)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】籠の中の自己実現『あなたのカナリヤ(遠藤京子の曲)』ギター弾き語り』)