And I Love Car 奥田民生 曲の名義、発表の概要

作詞:作曲:奥田民生。 奥田民生のアルバム『CAR SONGS OF THE YEARS』(2001)収録。

奥田民生 And I Love Carを聴く

タイアップお待ちしておりますっ!! とでもいわんばかりの肩の力の抜け方と突き抜けた趣味性の振れ幅が素晴らしい。

たとえば生活に関係の深そうな名詞を適当に20個くらいあげて、それぞれの名詞を発想元に1分半くらいのCMソングをつくって、デキのよかったものを11〜12曲くらい残してフルコーラスにサイズアップして……なんてアルバムを作ってみたくさせます。

ブンブンブンブン……と車のエンジンがボチボチかかって、ゆるく、しかし確実なペースでプスプスと出かけていくみたいなエイトビートのギターストローク。

和声の進行が意外なのが奥田さん印という感じ。Gのトニックからはじまって、すぐに短2度さがってF#7的なスッパイ謎進行。

ジーパン引きずって頻繁にタバコ休憩をはさみながら、しかし日常のなかで確実に仕事をこなしていくような、ラフさと気張り具合の塩梅と振れ幅が好いのです。

脱力ばかりしているわけでもありません。バックグラウンドボーカルの込み入り方に気合を感じます。また「フー!」っと高音に抜ける、演奏時間41秒頃のたった1発のシャウト(?)に思わず笑ってしまう。何よ、コッチはリラックスしてたのに急にブチかまされて腰が浮きます。ピーピーとオルガンはGS(グループサウンズ)チック。

そうそう、The Beatles『She Loves You』でいえば演奏時間1分2秒頃の「Hoo!!」ですね。奥田さんを聴いているとビートルズを思い出すことがしばしばあります。

そもそもタイトルからして『And I Love Car』。ほぼ『And I Love Her』じゃないですか……

『And I Love Her』演奏時間0分53秒頃の歌詞 “A Love like ours”が「ア・ラブ・ライク・カーズ(Cars)」に聴こえるんですよね。あれ? 今「Car」って言った? みたいな。なんでも「Car(カー)」に聴こえてしまう車偏愛者よろしく。

奥田さんの『And I Love Car』は車をコンセプトにしたコンピ『CAR SONGS OF THE YEARS』のための書き下ろし新曲と思ってよさそうです。この時点で特定のタイアップがあって納品したのとは違うのかな。純粋に車をコンセプトにしたセレクションに寄せる、車愛(くるまあい)の権化です。

そんな実直(?)な車愛(くるまあい)が多くのカンケイ車……じゃなくて関係者に響いたのか、2001年の『CAR SONGS OF THE YEARS』の発表から年単位以上の隔たりを経て複数回タイアップというか、本物のCMソングに就任しているもようです(参考Wikipedia>And I Love Car)。

短い曲なんですけど、ジーパンTシャツでラクしているだけじゃない。楽しんでいる……車のある生活を、車のある世界を盛大に謳歌している。音楽に起伏がありますし、ミニマルやコンパクトさと展開の豊かさを両立しています。

楽曲『And I Love Car』の魅力を歴代の名車種やなんかで喩えられたらよかったのですが、あいにく私には車愛が不足します。

趣味的に車を乗りたくなりますね。機能とか、道具としてでなく、車に乗るために車に乗りたいのです。

車はあくまでも 快適に暮らす道具

車に乗らないと いけない ワケではないぜ イエー

だけど好きなんだ いいだろ こんなにも 愛しているよ

And I love car この気持ちを 歌うんだ 君と僕の歌を

『And I Love Car』より、作詞:奥田民生

道具や交通インフラのような存在であるのも確かに理解しています。でも、そのうえで、機能以上の観念が車なのです。車=you。あなた。君と僕、における「君」です。好きなんだ、いいだろ?

“And I love car”(演奏時間0分28秒頃と1分3秒頃)と歌う瞬間のイントネーションが、井上陽水さん(作詞)と奥田民生さん(作曲)の共作でPUFFYが歌う『アジアの純真』で“バラライカ”(演奏時間0分58秒頃)と歌う瞬間のイントネーションに似ています……迷作だ。魅力の深さに聴き手が迷い込んでしまうという側面もありますが、正真正銘の「名作」で間違いありません。

話をあっちこっちに脱線させてくれる『And I Love Car』の自由気ままで多様な文脈へのミーハー心を思わせる音楽性、曲想が素敵です。道草とか寄り道を目的にした車の旅などしてみたし。

青沼詩郎

参考歌詞サイト 歌ネット>And I Love Car

奥田民生 公式サイトへのリンク

『And I Love Car』を収録した奥田民生のアルバム『CAR SONGS OF THE YEARS』(2001)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『And I Love Car(奥田民生の曲)ギター弾き語り』)