ロックンロールは未来へのエンジン
佐野元春さんのデビュー曲。
イントロからフェーズがかったジェット気流のようなサウンドが、未来に向かって道を貫く鋭さと勢いを象徴します。
快滑に転がっていく言葉の連なりはそれそのものにリズムや抑揚が込められており、メロディに言葉をあてたり、言葉にメロディをつけたりする手法を超越しその向こう側に増幅した動力(エンジン)をふかして突進する強いアティテュードを私に印象づけます。
音楽で表現することはそれ自体が詩なのだと、すべての人の直感と共感を肯定しつつも、すべての人の足元、立ち位置は孤高で独自のものである厳しさも同時につきつけるかのようです。これが佐野さん表現の魅力であることを、彼のキャリアの初期に高らかに宣言する鮮やかさに目がくらまんばかりに眩しい!
アンジェリーナ 佐野元春 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:佐野元春。佐野元春のシングル、アルバム『BACK TO THE STREET』(1980)に収録。
佐野元春 アンジェリーナ(アルバム『BACK TO THE STREET』収録)を聴く
佐野さんのいでたちからは何か出ているのを京都音楽博覧会2025のステージに出演する姿からも瞬間的に悟ったのですが、録音物に込められた声からもそれが分かるようになってしまいました。録音物は、録音物の外側の体験への道標でもあるし、あらゆる実体験を象徴する見出しでもあるのです。
ズッズクズッズク……と、馬が走るようなリズムでエレキギターが疾走を象徴するリズムを刻みます。キュゥーン!と要所でピックグリスが入る。エンジンが噴き上がるどころか雄叫びを上げているみたいです。
テシテシ!とドラムのサウンドはタイトで余韻が短いです。要所のタムのフィルインのサウンドがドシっと肉厚で際立ちます。チチチと短いハットやスネアのサウンドを、4つ打ちのキックがぐいぐいと押し出します。
イントロのリードモチーフの「移動ド」読み「ソードーミーミーレレー、ミーレードーシドー」、これをちょっと圧縮したような「ソードーミーミーレードーシドー」と、ピアノのオブリガードが入ります。まるで夜空に向かって浮き上がり、紺碧の天井にタッチして地上に舞い降りるみたいな山なりの音形です。これにサックスも加わって、複数のバイブレーションをなします。
リードボーカルも、言葉のタイトなリズムが命のヴァースの単一の描線もあれば、ダブルやハーモニーの複数の線で「愛の対象」の所在を提示するかのよう。楽曲も後半、3回目のヴァースではヴァースの時点でハーモニーのトラックが入っています。“フッと迷ってしまいそうな時でも 二人でいれば 大丈夫だぜ”(『アンジェリーナ』より、作詞:佐野元春)。ヴァースの結びの歌詞を象徴するかのようなヴォーカルの描線になっているのですね。
Ah!!とかCome on!!とか鮮烈なシャウトを伴いエンジンは加熱していき、それまでになかった混迷を暗示するようなエンディングの展開がつきます。Eメージャー調でつむいできた楽曲本編に対して、G、F♯、F、B♭と激流の中に放り込まれるような不安定なコードを連ね、やれやれといわんばかりにAmの和音でいったんまたがっていたバイクを強制的に停め、未来はもはやフレームの外。予定調和なんてどこにもないぜと思わせる結末の意匠に感嘆の吐息がもれます。
明日はお前が・おれたちがつくるんだぜ、と……見えてる未来に向かうんじゃない、己だけが知る高み・深みに向かって、エンジンふかして自分のアシで駈けて行くんだぜ!と激励されている気分。
青沼詩郎
佐野元春 DaisyMusic Info.(公式) (@DaisyMusicInfo) ·X へのリンク
『アンジェリーナ』を収録したアルバム『BACK TO THE STREET』(1980)。ジャケット写真からして、もうしびれるほどかっこいい。いでたち、立ち姿だけで鋭く刺さる覇気が出ている気がします。