恋の得
悲しいことを悲しそうに歌うのもあるでしょう。でも悲しみを動機に、明るく爽やかにしたためたものもほろっと来るものです。
失恋で致命的(精神的に)なダメージを受けることができるというのも、若い特権かもしれません。
それも人によるでしょう。何歳になっても恋愛して、本気出して、恋の終わりに傷つきまくって精神的にクリティカルダメージを負っては回復して……を重ね続けているタフな一級恋愛戦士もいるかもしれません。「若さの特権」などでなく、恋と、それによってダメージを負って回復してというのは誰しもに認められた自由であるはずです。
恋とダメージはセットみたいに言っています。恋は短命になりがちなものなのでしょう。
じゃあ、成就する(生き永らえる)恋なんてありえない、って言っているみたい。愛は恋の進化系? もっともっと複雑なものでしょう。恋だって複雑なのかもしれません。いえ、シンプルなものかもしれないけれど、多様であることについては愛と同等でしょう。長命な恋だってあるはず。
恋や愛の記憶を得たことへの感謝、ありがたさです。これを歌えばカタルシスです。失ったものごとを歌っているようで、実はそれは「得たことへの感謝」なのではないかと。まずは得ないと、失うこともできません。得ることも失うこともないものは、この世に存在しないものです。始まりと終わりはセットなのです。
あの人 ザ・ワイルドワンズ 曲の名義、発表の概要
作詞:岩谷時子、作曲:加瀬邦彦。ザ・ワイルド・ワンズのシングル『青空のある限り』(1967)に収録。
ザ・ワイルドワンズ あの人を聴く
さわやかです。ユニゾンのボーカル、バンドとストリングスが一体になっています。
ヘッドホンで聴くに、右にクランチなリズムギター。かるくてクリっとした輪郭があって、とにかく軽い。気持ちのよいサウンドです。
ふつうまず耳がいくのは左のリードギターですよね。作曲者でもある加瀬邦彦さんの演奏でしょうか。残響感が潤沢です。輝きと芯の強さに満ちていて、このバンドの顔たるサウンドかもしれません。
ドラムスも非常に流麗で闊達です。軽やかですがローがよく出てもいて、低いタムの胴鳴りが空間に溶けていきそうなリッチな質量感です。右にドラムスの定位がふってあって、クランチのリズムギターとグループ内ユニットを組んでいるみたいです。
ベースが左に定位しています。私の幻聴かもしれませんが、ストリングスの低音パートはひょっとして右寄りに振ってある? 時代特有の極端な定位の方向性ではあるのですが、両耳で得るサウンドのバランス感がすごく良いのです。真ん中の厚いユニゾンボーカルとストリングスをうるわしく風に乗せていて大成功なサウンド。サブスク配信されているこの音源は2016年あたりのリマスタリングなのかもしれません(参考:ユニバーサルミュージックのサイト)。
Bメロあたりでサブドミマイナーとか副次調ドミナントなどが出てきて甘酸っぱさと緊張と弛緩のさわやかな風が私の脳にレモンスカッシュを吹かせます(語彙崩壊)。
作曲の加瀬邦彦さん、沢田研二さんやアグネス・チャンさんほか、楽曲提供においてもその後に及んで活躍し続けています。沢田研二さんの有名曲、あの『TOKIO』も加瀬邦彦さん作曲だったのだと改めて認知しなおしました。
GS期に存在をあらわし始めた人のその後に及ぶ音楽界での長く大きな活躍のケースって、けっこう多いようなのです。
青沼詩郎
THE WILD ONES 公式サイトへのリンク GS期に活躍したバンドの公式サイトが2024年時点で存在するケースは非常に稀。“ワンズ”は現役なのですね。
『あの人』を収録した『ザ・ワイルド・ワンズ・アルバム 第2集』(1968)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『あの人(ザ・ワイルドワンズの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)