ある日渚に 加山雄三 曲の名義、発表の概要
作詞 ・作曲:弾厚作。編曲:森岡賢一郎。加山雄三のシングル、アルバム『君のために』(1968)に収録。
加山雄三 ある日渚に(アルバム『君のために』収録)を聴く
たとえば彼の代表作『君といつまでも』はこれぞ加山雄三サウンドを提示する格好の一例だと思います。そしてまたこの曲『ある日渚に』も、加山さんの道の中心を思わせるサウンドだと思います。
パカンとさばけたサウンドのドラムは左サイドへ。手数を詰め込むところとひたひたと凪いだ海岸に足を浸す夕刻みたいなメリハリあるドラミングが侘び寂びです。
右サイドにはズゥンと深いベースが振ってあります。すべてのパートに寄り添いエスコートする紳士のようなサウンドです。
ベースとドラムの間、中央の奥のほうからはタンバリンがチキ、と鳴きます。なるほど、こんなバランスの取り方もあるのか(振りものの小物楽器は両サイドどちらかに振るのを考えがちな私)。
ピアノがチャランとやさしげにダウンストロークの分割をなします。うすあかりのなかで乱反射するたそがれどきの海面みたいに輝かしい音色です。
オブリガードにチェレスタのような音色が口数を絞って的を射る呪文をとなえます。グロッケンも重ねてあるのか、オクターブの広がりある輝かしい音色です。
左寄りで豪勢に音域をわたるのはハープでしょうか。カランとした張りのある音色がアコースティックのナイロンギター、あるいはマンドリンみたいに聴こえる瞬間もあるくらいですが音域と表現力の広いハープの変幻自在さに惑わされたのかもしれません。
ホルンのカウンターメロディの動きが愛らしさあまって憎いほど。この感動の編曲よ……どなたの仕事かと検索すれば、森岡賢一郎さん(参考サイト:記憶のLibrary)。ストリングスは麗しく劇的に、バーッと低い音域で勇壮豪快なブラスはチューバなのかトロンボーンなのか。猛々しい局面から甘美な局面まで、一曲のなかで景色を豊かに変化させる編曲はまるで海の百景です。
歌い出しのボーカルメロディよ。シ♯ ド♯ ソ♯ー ファ♯ー、ド♯ シ ド♯ー……(♪渚によせる……)と、短2度でずりあげる冒頭、それからメージャーセブンの響きを自ら取りに行くメロディのいじらしい美しさが卓越しています。加山雄三さんの書くメロディの機微にはいつも驚愕を覚えてばかりです。
これも岩谷時子さんの詩情との掛け合わせが生むに違いないんだよなぁ、さすがお二人……などと思っているとさらに面食らいます……違うんですよ、この曲『ある日渚に』は作詞作曲ともに弾厚作(加山さんの筆名)なのですね。うーん、黄昏時の海の神様が降臨している。耽美です。
メジャーセブンの音程の付近をうろうろする、くすんだ複雑な胸の内を暗示するようなメロディと、“ひとりでゆうべ見た 君の夢”あたりの上行音形の朗々とした歌唱が堂々たるものです。かつ分散和音(アルペジオ)的に、器用に和声音の旋律音程を射抜いていくメロディ、確かでふくよかな歌唱よ。
クラシック史上の大家も真っ青必至の美メロです。加山さんのメロディをモチーフに交響曲とか書いたら300年先に届くんじゃないか(あるいはこのまま歌物の大衆音楽の姿のままでも……?)。目の前の海はきっと300年前からもつながっているんだよなぁ。スケールの大きい感傷を誘います。
青沼詩郎
『ある日渚に』を収録した加山雄三のアルバム『君のために』(1968)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ある日渚に(加山雄三の曲)ウクレレ弾き語りとハーモニカ』)