As Tears Go By 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Andrew Long Oldham、Keith Richards、Mick Jagger。Marianne Faithfullのシングル(1964)。 The Rolling Stonesによるセルフカバーはアルバム『December’s Children (And Everybody’s)』(1965)に収録。

Marianne Faithfull As Tears Go Byを聴く

印象的なダブルリードの楽器はなんでしょう。オーボエにしては低い? ファゴットなのかな。ストリングスとユニゾンして歌いますし、そもそもこのダブルリード楽器自体もダブル(2本以上)で演奏している感じの描線です。ボーカルミュージックにおいてはあくまで脇役かもしれませんがこの楽曲の印象を大きく左右するキーマンに思えます。

マリアンヌのつぶやくようなリードボーカルが夕方の公園の空気に溶けるみたいに儚い。後年のリレコーディングの彼女の声質の生まれ変わりぶりを聴くとびっくりしますが、この時代からすでに低いところの落ち着いた響きに深みと魅力があるのがうかがえます。

ロネッツ『Be My Baby』を思い出させるようなバスドラムがクラシックの大太鼓っぽい。実際ドラムセットのキックドラムではなく大太鼓なのか?わかりませんが。スネアのリムとタンバリンが完全に同調したリズム形で彩ります。

12弦ギターの響きは夕空を交う鳥の軌道です。

商業音楽の世界に「目立ったもん勝ち」「いまこの瞬間注目されるかどうか(10年後なんて知らん)」を尊重する気風が仮にわずかでもあるならば、そうしたアティテュードとは大きく距離をとる深い詩情があります。ひとこといって、大衆音楽としては地味。そこが最高です。毎日のゴハンと味噌汁と、ほうれん草だか小松菜の胡麻和えおひたしにアジ干しの主菜がもたらす必要十分な充足感。糖質と脂と塩分盛りマッチョなごちそうのケータリングパーティなんて毎日していたら身体を壊すでしょう。10年や30年で簡単に変質する表層でなく、森羅万象の風の通り道を深いところから眺める落ち着きがあります。

The Rolling Stonesのセルフカバー

コチコチパキパキとはじける、軽い歯触りを思わせる弦のストローク音と複弦の同時に鳴る豊かな響き、深さ。12弦のギターと歌だけでも十分構想を表現できます。

ルームアンビエンスの質感をまとったストリングスはカルテット……vln,vln,vla,vclの4パート編成なのかな? 人数を割くが必要最低限のスタジオミュージシャン勢の個別の線・輪郭が残る……ビートルズ『エリナー・リグビー』など思い出させるサウンドです。

12弦ギターの音が近くて、ストリングスが奥にある位置関係の表現は良いのですが、ストリングスと前面の主役ふたり(ボーカルとギター)が混ざり切っていない(それぞれが別の空間で鳴っているものを後から合わせた)感じがするのが少し音響的に惜しいかなと思います。別録りしたのでしょうか。

ボーカルの風にふかれて卒倒してしまいそうな繊細で優しいフィールが素晴らしい。ローリング・ストーンズというと悪童のアイコンに思えてしまうのは彼らの代表曲や浅いファンにも広く知られる曲が覆うイメージのせいかもしれません。

遊んでいる子供と私の涙

マリアンヌへの楽曲提供の機会は、ストーンズにとって「自分たちが演奏することで成立する価値」に頼らない創作を経験する機会になったのでは。それによってこんなセンシティヴで柔和な、ある意味彼らのレパートリーのメインストリームを外れる名曲が生まれたのだ! とは仮説するしかない(実証できない)程度の浅知恵しか持たない私ですが、率直にこの曲が好き。

子供が遊んでいるとか、日常のありふれた風景はこれまでにごまんと接触してきたはずです。それなのに、あるときから、別の意味をもつ情景に変貌するのです。

その境目は広く、境目と称するにはあまりにあいまいで無段階です。

感情のシンボルとしての涙とありふれた目の前の風景の対比に、その意味を鑑賞者に見出させる余白がこの楽曲の気持ちよさなのでしょう。

青沼詩郎

参考Wikipedia>アズ・ティアーズ・ゴー・バイ (涙あふれて)マリアンヌ・フェイスフルディッセンバーズ・チルドレン

参考歌詞サイト AWA>As Tears Go By

Marianne Faithfull 公式サイトへのリンク。2025年1月30日にご逝去されたと報告記事が投稿されています。マリアンヌよ安らかに。

The Rolling Stones 公式サイトへのリンク

Nostalgia Lying on the G String G線上に横たわるノスタルジー>ローリング・ストーンズ – As Tears Go By ~歌詞和訳

原詞のニュアンスの機微、楽曲の背景、楽曲がストーンズ、マリアンヌにもたらした影響のレイヤー、綾が伝わってくる素晴らしいブログサイト記事を発見したのでリンクしておきます。

『As Tears Go By』を収録したMarianne Faithfullのベスト『A collection of her best recordings』(1994)

『As Tears Go By』を収録したThe Rolling Stonesのアルバム『December’s Children (And Everybody’s)』(1965)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『As Tears Go By(Marianne Faithfullの曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)