Baby It’s You The Shirelles 曲の名義、発表の概要
作詞:Mack David、Barney Williams(Luther Dixon)。作曲:Burt Bacharach。The Shirellesのシングル(1961)。The Beatlesのカバーも知られ、アルバム『Please Please Me』(1963)に収録。
The Shirelles Baby It’s Youを聴く
ズボンッ!とぶっ飛び級の低音が凄い。バスドラムの音ですね。ロネッツ『Be My Baby』すら霞んでしまう?!くらいの低音の出方にのけぞります。
ピアノの伴奏だけでも成立しそうなくらいピアノがリズム・和音のイニシアティブを持ちます。
ピアノの低音とほとんど動きをそろえたコントラバスのベースラインもズボンと出た低音を形成する一員でしょう。イントロのところなどは2拍目のオモテ・ウラでタムを鳴らしているでしょうか? それも飛び出た低音の要因のひとつに思えます。
ギターのエコー(こだま効果)がカラオケ屋かよとのけぞるくらいに聴いています。スチャッとかろやかに音を止め、追随する残響でリスナーを余韻に浸します。こだま効果による反復自体がリズムを形成します。
メインボーカルにはエコーとは対照的にスーっとまろやかに霧がかかるみたいに奥へ抜けていくリバーブ。歌唱は柔らかく甘い。エンディングの歌詞の”戻ってきて”の一言が胸に刺さります。ちょっと状況が芳しくない恋愛の現状のせつない嘆きが伝わってくる歌唱です。
シャラララ……とバックグラウンドボーカルが入ります。アーといった伸ばす音も描きます。しゃしゃり出るエネルギーやはつらつとしたグルーヴの黒っぽい質感というよりは、やわらかく柔和な響きで恋の悩みの嘆きをリードボーカルと協調して表現します。下のほうの音域に男声もいるように聴こえますがメンバー外の助けでしょうか。プロデュースや作家陣営のなかの誰か一人なのかな。
脳みそが沸騰しそうなオルガンのサウンド。お前いままでどこにいたよ?! とつっこみたくなるくらいに急に現れて、とてつもない音量で私の耳を串刺しにします。実音のオクターブ上の倍音がめちゃくちゃ強くて、高い音域にメロディが上がったときにピィーッと貫く鋭さが戦闘力5万という感じ。
ビートルズのサウンドが耳に浸透していますが、原曲はこちらのシュレルズの実演。良いガールズ・ボーカルグループです。
The Beatles Baby It’s You(アルバム『Please Please Me』収録、2009 Remaster)を聴く
ジョンのリードボーカルの嗄れた味わいがブルースハープみたいに哀愁めいています。命を燃やし尽くすかのような渾身のワンテイク『Twist And Shout』の歴史的名演をやる直前に収録していたのがこの『Baby It’s You』だそうです。
感傷的なヴァースに対して、“Can’t help myself”のあたりのボーカルに高揚感があって激情が漂います。でもむなしいのです。侘び寂びがありますね。風情があります。天才かよ。
起伏に富むボーカルが口を結ぶ間奏のところでは、ジョージ・マーティンのチェレスタの間奏です。この世よ、おさらば感。”別れのワルツ”かよとツッコミたくなる寂寥感。ジョージのエレキギターがほとんど同じモチーフで帯同します。

シンプルな感じの曲調ですがベースのニュアンスが黒っぽい。グルーヴがあるんですよね。それでドカっとドラムが効いて、感情を乗せるおあつらえ向きの箱ができあがり。
時代特有の極端なステレオミックスの例にもれず、左に楽器類がダンゴになっていて、右にボーカル群が寄せられています。”Cheat”と嘆いたり、sha la la la……と風がささやくみたいなバックグラウンドボーカルもみんな右寄せでボーカル類がひとつの楽器のように一体になりつつ、人間関係の交差点のようにリズム、合いの手とリードが出入りします。
強すぎるゲーマーやプレイヤーをさして「チートだよ」なんて嘆く用例がありますが、cheatはいかさまとか詐欺とか不正、インチキなどのニュアンスがあるようです。歌詞でこの流れのなかで用いられれば「嘘つき」といったところでしょうか。意思や意図の偽りですね。口で一度は誓ったことと、結果や結びつく顛末が異なる無責任さ、奔放さに振り回される主人公を思います。
言われて気持ちの良い言葉ではないはずです。石をぶつけてやりたいようなやり場のない気持ちが“cheat”という語彙にあらわれているようでいじらしい。主人公の肩を持って歩いてやりたくなります。
青沼詩郎
参考歌詞サイト JOYSOUND>Baby It’s You
『Baby It’s You』を収録したシュレルズのアルバム『ベイビー・イッツ・ユー』(1962)
『Baby It’s You』を収録したThe Beatlesのアルバム『Please Please Me』(1963)
参考書
ビートルズを聴こう – 公式録音全213曲完全ガイド (中公文庫、2015年)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Baby It’s You(The Shirellesの曲)ピアノ弾き語り』)