葛城ユキの不滅の声 ボヘミアン

葛城ユキさんを私がはじめて認知したのが『ボヘミアン』ですし、楽曲『ボヘミアン』を認知したのが葛城ユキさんによる音源です。

死の淵にこびりつき何度でも這い上がるような強烈な歌、最初のひと声で脳の裏側まで振盪してしまいます。歌謡曲とその次の時代に抜きん出るための挑戦の端境にいるような、年代相応を思わせるオケの質感もこの歌声に率いられて地獄の門を貫く幾星霜の旅に連れていかれる有り様です。

このfrom hell to heaven気分のインパクトでてっきり葛城さんのオリジナル作品だと思い込んだ私ですが、楽曲『ボヘミアン』のオリジナルアーティストは大友裕子さんだと今になって知りました。

ボヘミアン 大友裕子 曲の名義、発表の概要

作詞:飛鳥涼、作曲:井上大輔。大友裕子のシングル(1982)。葛城ユキによるカバーの『ボヘミアン』シングルと収録オリジナルアルバム『RUNNER』は1983年発表。

大友裕子 ボヘミアンを聴く

時代の閉塞感に窒息しそうになりながら必死に水面に向かってあがきかろうじて息を吸う。そんなアティテュードを感じる、儚く孤独でさびしげな大友さんのボーカルに強い哀愁が匂います。曲想と曲のアイデンティティも相まっての印象でしょう。

左にエレキギターのカラっとした、しかし強いサスティンとエッジのカッティング。リズムギターとは別に、ツインギター風のオブリガードも入っています。やはりカラっとしているのですが粘りのあるモチーフです。

ベースが1拍目、2拍目ウラ、3拍目(+4拍目)にストロークを置き恒常的にビートを運んでいきます。クラヴェス(拍子木)がアクセントを添え、リズムをきらっと一瞬輝かせたかと思えば霧散してしまいます。

ホワンとストリングスシンセのようなサウンド。輪郭も霧のなかに埋もれてしまうかのよう。私は何を求めどこへ向かっているのだろうという気分にさせます。

そもそもボヘミアンって何なのか。クイーンの超絶有名曲にボヘミアン・ラプソデイというのもありますね。

ボヘミアン、その意味は放浪する人、もしくはそういう根なし草的な生活スタイルの人といったところでしょうか。根なし草というニュアンスと伝統的な遊牧生活様式を混同してしまうのもだいぶ失礼な話でしょう。それくらい、「ボヘミアン」と一言にいっても幅広いニュアンスがいもづるになって私のなかに格納されているのを思います。

ボヘミア地域といってよいであろう一帯がチェコ西部。ドイツ語でベーメンというそうです(ドイツ北部の都市・ブレーメンとは無関係だとか)。具体的にその地域を生活圏とする人を指す意味としての「ボヘミアン」のニュアンスもあることでしょう。

チャゲアスのボヘミアン

チャゲアス関連作といいますか、そもそも作詞が飛鳥涼さんでCHAGE and ASKAによるセルフカバーが発表されています。アルバム『Standing Ovation』(1985)収録。輪郭が明瞭なバンドとオケのサウンドが大友さんヴァージョンとはかなり印象が違います。突き上げた拳の似合うエキセントリック・アーティストと称えたいチャゲアスらしいカリスマ的なサウンドです。哀愁と未来の見通しの不明瞭さを嘆く曲想を大友さんバージョンからは感じもしましたが、チャゲアスバージョンは見通しなんか知るか、自分を貫いて駆け抜ける沿道の風景がどんなだろうと知ったこっちゃないね! オレはオレの道を行くだけ……というようなベクトル(やじるし)の強さを覚えます。

大友さんと葛城さん版の『ボヘミアン』はどちらも作曲者と同一の井上大輔さんが編曲。

CHAGE and ASKAの『ボヘミアン』は村上啓介さんが編曲です。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ボヘミアン (曲)

参考歌詞サイト 歌ネット>ボヘミアン

CHAGE and ASKA 公式サイトへのリンク

『ボヘミアン』を収録した『ポプコン・マイ・リコメンド 大友裕子』(2006)。『ポプコン スーパー・セレクション 大友裕子 ベスト』(2003)の再発にあたると思いますが『赤い傷』『漂流』が追加収録されています。

葛城ユキ『ボヘミアン』を収録したオリジナルアルバム『RUNNER』(1983)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ボヘミアン(大友裕子の曲)ギター弾き語り』)