California coconuts くるり 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:岸田繁。くるりのアルバム『感覚は道標』(2023)に収録。配信シングルとして同年、先行発表。

くるり California coconutsを聴く

はじめてこの曲を聴いたときの岸田さんの慈愛に満ちたリードボーカルにあてられて心が発熱しました。それから何度聴いてもそのままですね。聴く度にヒトや土地の縁に全霊の感謝をささげたくなります。

伊豆で録音されたアルバム『感覚は道標』一連の作品群。その土地のニオイや、出入りしたあらゆる霊魂が楽曲に乗り込んでいるよう。時とヒトの往来のなかに、私の先祖に関係のある誰かも言葉を発したり酒を酌み交わしたりしていたかもしれない。そんな風にしか思えないくらいに、今この瞬間の私の魂に直接潮風を吹き込む不思議と奇跡。wonderfulという単語はこのためにあるのじゃないか。私の心がもっとも共振するすべての倍音のツボをおさえた地図がフィルムに焼き付けられている。私は実際その通りに歩き、自分の胸の印画紙をフィルムに重ねて画を焼き付けるのです。

イントロのギターが輝かしい海辺の国道を思わせます。キラキラとして、歯触りがよいサウンド。これぞなフェンダーサウンドです。普段の岸田さんの使用機材からフェンダーテレキャスター(シンラインかな?)の音かなと想像します。連綿と動きながら、地盤と自分の足元を確かめながら、どこまで飛べるか実験しながら、地続きに道を行くように、着実に、植物が繁茂するように景色が移ろっていく。そんなビジョンを私に重ねさてくれるギターのイントロで楽曲が幕を開けます。

くるり『California coconuts』イントロのギターの採譜例。主音を根音に、上声を万華鏡の中の模様のように光彩豊かに変化させていくアルペジオプレイが白昼の海辺の景色を連想させます。

ベースがなでるようなタッチで慈愛深い。添いながら走る:伴走するとはこういうことよ。足の裏から、足首、膝、股、骨盤や腰……すべての関節や筋肉の挙動に目を配り、長く恒常的にジョギングするペースを思わせるベースの8分音符。前の音符に後ろの音符を引き合わせる、ひとつひとつの音をコーディネイトするような器と人徳を感じさせる柔和なベースプレイです。

はたくような、ほこりがたつようなハイハットのニュアンスに、森さんの肉体が電気信号ごしに私の脳に転写されます。表拍と裏拍のニュアンスの叩き分けで、ベースのまっすぐなエイトビートにヒネリ、揺らぎ、スウィングを加える。そうだ、オリジナルメンバーのくるりのグルーヴはこれだよと思わせます。くるりの代表曲のひとつ『ばらの花』と真っ先に列挙するなら『朝顔』(アルバム『感覚は道標』収録曲)が筆頭でしょうが、今日の私がリスニングする『California coconuts』は猛烈に私に『ばらの花』のドラムス、特にハイハットのエイトビートのニュアンスを思い出させます。

パーカッションにYASUMASA HAMANOさんがクレジットされています。途中でシュクシュクと鳴るシェーカーの演奏でしょうか。ビブラフォンは森さんの演奏なのかな? ビブラフォンの深くまろやかな響きの質量とやわらかな音の伸びと揺らぎはアルバム『感覚は道標』、ならびに『くるりのえいが』サウンドトラック一連の作品の「顔」的な音色として重役のひとつだと思います。

バックグラウンドボーカルにASUKA SAITOさんのお名前。演奏時間が3分0秒にさしかかるあたり、歌詞“一緒に歌おう”を合図に“ララララーララララ……”。心のなかの私も一緒に歌ってニッコリします。

オルガンが豊かな光彩と深い響きを加えます。オルガンとビブラフォンが出入りしてギターバンドがベーシックを轟かせるバンドの音。やんちゃな身体活動だけではない素養が映り込む新定番なサウンドと称えたい。オルガンは岸田さんのプログラミングによるものかと思いますが、生楽器が目の前で鳴っているように喜びを謳歌します。プログラミングと生の演奏のサウンドの境界を溶かす至高の手技に感服です。

演奏時間2分55秒前後あたりからのリードボーカルの同音程のダブルが心に刺さります。豊かな音程の重なりあいでハーモニーを出すところとのメリハリが豊かな起伏を楽曲に与えます。このダブル(ユニゾン)で先段で述べた“一緒に歌おう”のラインにつながるのです。

バンドで視線を交わし、息を合わせたりぶつけたりして瞬間を練り上げる「反射」「感覚」の世界と、地続きの歩みで獲得してきた職能とがばちばち火花を散らしたかとおもえば夜の闇にしずかに煙をくゆらせる。そんな一期一会のセッションの淡白さと一瞬に宿る一生分の豊かさを思わせる、アルバム『感覚は道標』のリードソングのひとつが『California coconuts』。『In Your Life』とならんで、2023年秋季にリリースするアルバム『感覚は道標』に先駆けて夏までに先行で封切られた楽曲で私たちくるりファン(純情息子!)の胸を今に渡り揺さぶり続けています。

青沼詩郎

参考Wikipedia>くるり

参考歌詞サイト 歌ネット>California coconuts

くるり 公式サイトへのリンク

『California coconuts』を収録したくるりのアルバム『感覚は道標』(2023)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『California coconuts(くるりの曲)ギター弾き語り』)