道化との出会い

ピーター・ジャクソン監督の『ザ・ビートルズ: Get Back』。2021年にディズニー・プラスで配信された3部作。8時間に及ぶサイズ感も話題になりました。それを食い入るように(あるいはalcoholでもひっかけながらリラックスして)観た私。劇中(ドキュメンタリーですが、……劇的?)ではビートルズがさまざまなカバー曲をこれでもかと連発・拡散します。テキストで曲名も画面内に出るのでそれを逐一メモしながら観た私。

その中に『Cathy’s Clown』(The Everly Brothers)があって、それがこの曲と私との最初の接点だと記憶しています。

Cathy’s Clown The Everly Brothers 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:Don Everly・Phil Everly。The Everly Brothersのシングル、アルバム『A Date with the Everly Brothers』(1960)に収録。

The Everly Brothers Cathy’s Clownを聴く

この世界的ブラザーの宝の刀といえば何に比しても甘美でとろけるボーカルハーモニーでしょう。エンディング付近、Gの和声音「シ・レ」の下のパートが「シ♭」から「(ナチュラル)シ」にむかってポルタメントするところなど、リスナーを幻惑する道化感がおあつらえむきに表現されています。

Clownって道化ですよね。ピエロ。人をまどわせる。そそのかす。享楽へ誘う案内役。

人をだめにする。悪ふざけする。本音をいわない。うそをつく。ごまかす。ハッタリばかり。

行を分けて書いた後段のほうは悪いイミばかりになってしまいましたね。そう、人を、あるいは何かをピエロにたとえたりピエロと形容するとき、それはあんまり褒める意味ではないケースが多いのではないでしょうか。

そのせいか、他人様に用いるよりは自虐的に自分のことを形容してピエロだというポップソングも世にはある気がします。

ズン、チャッ、ズン、チャッというリズムの愚直なくらいなシンプルさよ。スネアが「ッタララ!」といった感じで装飾がつき、ざらっとした質感と前後の幅で見せます。キックドラムの深い響き。

Bメロというのか、この曲の場合ヴァースの部分が「コーラス(クワイア)」でコーラスの部分が「ブリッジ」みたいな感じがしますが、その部分でキックドラムが落ち、ライドシンバルがけたたましくカンカンと群衆の注意を引き人集めをするみたいに鳴り出します。これから紙芝居でも読もうってのかい。いや、道化なんだから大道芸とか曲芸でもするのかな。

エレキギターの2・4拍目の強調。ピアノがぽろぽろと絡む。ベースはこの曲調や年代だったらコントラバスを使っていそうにも思うのですがエレキのベースなのかな。キックドラムが落ちていなくなるところでもベースが残るのでうすっぺらにはなりませんが、地盤が宙に浮いたみたいな感覚がする。ここも化かされた感じです。

恋愛は道化術コンペティションです。お互いを幻惑しあって、相手を負かせてどうするんだい。

恋愛は勝負ごと。結婚とか永続的なパートナーシップは事業の共同(協働)という側面があるかもね。『Cathy’s Clown』は恋愛の歌でしょう。

青沼詩郎

参考Wikipedia>キャシーズ・クラウン

参考歌詞サイト AWA>Cathy’s Clown

『Cathy’s Clown』を収録したThe Everly Brothersのアルバム『A Date with the Everly Brothers』(1960)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『Cathy’s Clown(The Everly Brothersの曲)ピアノ弾き語り』)