コーヒーブルース 高田渡 曲の名義、発表の概要
作詞・作曲:高田渡。高田渡のアルバム『ごあいさつ』(1971)に収録。
高田渡 コーヒーブルースを聴く
“三条へいかなくちゃ
三条堺町のイノダっていう
コーヒー屋へね
あの娘に逢いに
なに 好きなコーヒーを
少しばかり”
(『コーヒーブルース』より、作詞:高田渡)
三条堺町はどこでしょう。どんな町かな。
高田渡さんのぽつねんとした歌声が描くコーヒー屋さんはタバコが吸える感じの「昔ながらの喫茶店」でしょうか。十把一絡げな形容は気が引けますが……。豆の自家焙煎からやるこだわりの店も世には存在するでしょう。「イノダっていうコーヒー屋」はどうなのか。「KEY COFFEE」などと書かれた看板が表に出ている店なども世にはありますが実際はどうか。私の無知がイマジネーションを貧困に押し込めてしまいます。
ぽろぽろとアコースティックギターの伴奏、かろやかなものです。スリーフィンガーでしょうか。コード進行、シンプルですがぐぐっと胸に迫る一瞬のⅠ→Ⅲ7/ⅶの展開。熱湯に浸って開く紅茶葉のように、物静かながらにも緊張と弛緩のはざまをゆらめく響き(コーヒーだってのに)。
“おはよう かわいい娘ちゃん
ご機嫌いかが?
一緒にどう
少しばかりってのを
オレの好きなコーヒーを
少しばかり”
(『コーヒーブルース』より、作詞:高田渡)
コーヒーはおじさんの飲み物みたいなイメージがあります。ブラックコーヒーは特におじさんチックです。昭和のイメージですね。もちろんコーヒーもいろいろですからそのイメージも多様です。明るいルビー色の酸味のある浅煎りのコーヒーを出す店も世にはあります。そうした店には若い人の姿も多く見えそうですが……高田さんの『コーヒーブルース』で描かれるコーヒーは……少なくともルビー色の浅煎りではなさそうに思います。
お気に入りのコーヒーをお気に入りの可愛い娘ちゃんとシェアしたい気持ちはわかります。「可愛い娘ちゃん」……実生活で私が一度も用いたことのない語彙です。
高田さんのぽつりぽつりとつぶやくような歌唱が哀愁。どうなる未来をも受け入れる諦観。信号機のない横断歩道を左右を見て行き交う車を避けながらそろりそろりと行くように言葉がすり抜けていきます。
“いい娘だな 本当にいい娘だな
ねえ あついのをおねがい
そう あついのをおねがい
そう 最後の一滴が勝負さ
オレの好きなコーヒーを
少しばかり”
(『コーヒーブルース』より、作詞:高田渡)
ドリップコーヒーは最初の方(出はじめ、落ちはじめ)の抽出液が美味いです。最後の方の抽出液は味がうすいし雑味が乗っておいしくない。手早く(しかしじっくりと)最初のほうの液だけを抽出して、出来上がり分量に対して半分くらいは白湯で割るコーヒーを好む通も世にいるくらいです(私はそこまでしませんが)。
「最後の一滴が勝負さ」なんて言われると、さもそれらしい。私の思うのとは違う意味の「勝負」なのか。
無知は知への切符……ということで「イノダ 三条堺町」などと入れて検索してみるに、おあつらえ向きなページがヒットします。
「イノダ」は京都に複数店舗があります(当時はどうか知りません)。三条堺町は京都なのですね。私が勝手に想像したタバコ臭そうな昭和な喫茶店像よりもずっと快適で品が良さそうです(昭和な雰囲気の店にも快適で品の良いところはあるでしょうが)。
高田渡さんは京都の生まれではないようですが「京都時代」といえる時期があるようです。ご本人の実際の人物像と歌の中の人格は『コーヒーブルース』においては限りなく近いものに思えます。
三条へ行かなくちゃ……コーヒーはうまいし、あの娘に逢えるからね。行かない理由がありません。「あの娘」が店員でないとも限らない。
ちなみにイノダのコーヒーはミルクと砂糖入りが定番のようでもあります。ブラックじゃないんだね。
無知だからこその自由な連想もきっとあるでしょうが、店名とか地名はやっぱり固有の情報を知ることで解像度が飛躍的に上がると思い知ります。
実在のイノダコーヒ。行ってみたいですね。できれば京都の店舗へ。ネルドリップ(布のフィルターを使った抽出)だそうです。なめらかな味がしそう。行ってみたいね。少しばかりってのを。
青沼詩郎
『コーヒーブルース』を収録した高田渡のアルバム『ごあいさつ』(1971)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『コーヒーブルース(高田渡の曲)ギター弾き語りとハーモニカ』)