やわらかに前後上下する夜

ノラ・ジョーンズといえば『Don’t Know Why』を真っ先に思い出す私ですが、その楽曲を擁し、そのアルバムを表題する楽曲が『Come Away with Me』です。

『Don’t Know Why』の作詞作曲はジェシー・ハリスさん。ノラ本人ではないのですね。ではノラ自身はどんな曲を書くのか、ということでこのアルバムを表題する本曲がそれにあたります。

Norah Jones Come Away with Me 曲の名義、発表についての概要

作詞・作曲:Norah Jones。Norah Jonesのアルバム『Come Away with Me』(2002)に収録。

Norah Jones Come Away with Me(アルバム『Come Away with Me』収録)を聴く

腕利きのジャズミュージシャンをフィットしたとのことで、サウンドは耳福そのもの。左右にエレキとアコギが定位。ドラムはパサっと打面やシンバルにさわるようにソフト。ズーンとアコースティックのベース特有の伸び。ピアノがオブリガードやボーカルメロディのトレースをまじえ、波立たないように水面に葉をおとすようなプレイが静謐です。うっすらオルガンの音色もいるようかどうか。

静謐なサウンドがノラのボーカルの子音、のどもとを撫でて気管支を息が通り抜ける音まで克明に浮かび上がらせます。

3/4拍子で、あまりハッキリと分割を押し出す感じではないのですがよく聴くと1拍3分割のグルーヴ感覚を敷いているのようでしょうか。しかし2分割の感覚もつねに重ね合わせに並進しているフィールもあります。

1分25秒あたりの“Come away with me and we’ll kiss”のフレーズの“with me and we’ll”の部分に注意して聴いてみてください。これ、3拍子の3拍ぶんを4分割した「3拍4連」のリズムになっていませんか? ふだん日本語や英語のポップソングやロックソング中心にふれている私ですと、なかなかこの凝った分割に出会うことは稀です。ジャズだと日常茶飯事なのでしょうか。

3拍4連のイメージ。3拍それぞれを4分割して出来た12個の16分音符を3つずつ取ると3拍4連が出来ます

夜にちょっとどっか行っちゃおう? 一緒に…、という風情と茶目っ気のあるおしゃれでソフトで軽い曲調のラブソングなのか……? そのリズムの解釈が非常に柔軟であるのが象徴するように、おちつきがあります。ふたりの関係を不安がっていないし、どんな未来もかるく受け入れる心の博(ひろ)さを感じます。

ジャズに詳しくなくてもなんとなく聞き流して気持ちよく過ごすことができるこのサウンドや歌の質感はそういう精神の表出・表現として獲得されるものだと腑に落ちる気もします。

あまり主張の強い感じのボーカルメロディではなく、うえにしたにとふわふわと、跳躍音程も順次進行する音程もふくみ、そのリズムの解釈の柔軟さにうなずきを添えるようにやはり物腰が軽いです。

2分31秒頃~、間奏明けのブリッジの再現あたりからは元のメロディはフェイクされ、音域も高くなったり、“…the rain Falling on a tin roof”あたりのリズムの揺らぎ・前後感の幅もより分割の目盛りからの自由さを増していき…そんなところもやっぱり柔軟。

カジュアルな空気のもと、一つひとつの音がユッタリ過ごしています。グリッドにハマって、情報量で満たされた日本の娯楽音楽の表層をもし「昼」とするのなら、この曲はまさしく「夜」そのもの。ずっと夜でいいな、こんなロマンティックな時間であらば続いてくれ……そうもいかないですし、昼があるから夜も相対的に成立するのですけれどね。せめてこの音楽に浸る数分はあなたのために。

「夜」の観念、が、理想やロマンの至る「果て」の象徴のように扱われていると思うと、軽い曲想ではありながら、描いている愛の理念はやはり深いなぁと唸らせます。

本アルバムはジャズの名門・ブルーノート・レコードから出ている作品ですが、収録曲たちはジャズだなんだのラベリングを超越してポピュラーミュージックとして世界に親しまれており、昼のような表層の輝かしさと夜のような奥行きを有しているようです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>ノラ・ジョーンズ(アルバム)ノラ・ジョーンズ

参考歌詞掲載ページ KKBOX>カム・アウェイ・ウィズ・ミー

ノラ・ジョーンズ日本公式サイトへのリンク

Norah Jones ウェブサイトへのリンク

『Come Away with Me』を収録したNorah Jonesのアルバム『Come Away with Me』(2002)