まえがき

絢爛なピアノプレイは羽田健太郎さんによるものです。ディレイ(こだま効果)がかかったサウンドで時間の振れ幅を思わせます。フルートのオブリガードも、ふと実家から手紙が届く比喩みたいに思えるのは私の妄想過多でしょうか。ハープのぽろんとした軽いサウンドが儚い。ストリングスのしめり気は母の涙の意匠なのか。『いい日旅立ち』といったレパートリーの印象もある山口百恵さん、この曲を聴くとそうした旅情深さを実感します。人生は旅:さすらいなのだと思わせます。結婚などの転換点も、あくまで一本道の行程(人生)の経過なのです。 ちなみにサビで印象深い「小春日和」は晩秋〜初冬に用いる言語表現。心の中には春が、ほかの季節のもとにも存在しているのですね。

秋桜 山口百恵 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:さだまさし。編曲:萩田光雄。山口百恵のシングル、アルバム『花ざかり』(1977)に収録。

山口百恵 秋桜(アルバム『花ざかり』収録)を聴く

山口百恵さんの歌声はバフがかかっていますね。神に祝福と試練の両方を同時に与えられたような格別感があります。

具体的には、息の乗ったようなあたたかいアタック、発声の立ち上がりの質感のやわらかさ。それにともなう、低域(絶対的な低音域をさすのではなく、歌い手のからだに深く響く帯域、という程度のふわっとした意味で)の豊かさ。高い音域に張りあげても柔和な豊かさを保ったまま華やかを増します。

楽曲『秋桜』のサビのメロディ特有の音形、特に最後のサビの「もう少し」「あなたの」「子供でいさせて」……と同音連打を基調に徐々に下行してくる音形の反復のところの声のさびしくて叙情に富む質感は絶品です。

イントロから、アコギのアップピッキングの和音に目から火花が散る思いです。なんて華やかな響きだこと。音数豊かで、いろんなパートが緻密に出入りし、織り重なる精緻な編曲は萩田光雄さん。ストリングスが奥の方で暖簾を揺らしたかとおもえば、ほろろとふくろうがうめくみたいにぽろろとフルートが合いの手を入れてくる……かと思えば、ストリングスがそろろ、そろろ……と忍び寄るメリーさんみたいなサビ前の音形の反復の効いた対旋律にうなります。

ピアノの印象は華があって絢爛なのですが旋律がはかなくてさびしい。ディレイがかって、フォルムが涙でにじんでいるみたいに響きます。

子の結婚は、親にとって、ただ保護の対象からの卒業を意味します。もちろん成人する、社会人になるといったことも保護の対象から外れることの直接的なトリガーですが、結婚もまた、ひとつのトリガーである、そんな側面があるのは厳然たる事実でしょう。

しかし、主人公は「もう少しあなたの子供でいさせてください」と、礼深い態度で子らしく甘えるかのように最後のお願いを浮かべる曲の結び。スっと画面は消えて(楽曲は鳴り止み)、親と子の残されたわずかな時間にはリスナーも立ち入る隙がありません。

青沼詩郎

参考Wikipedia>秋桜 (山口百恵の曲)

参考歌詞サイト 歌ネット>秋桜

山口百恵 ソニーミュージックサイトへのリンク

『秋桜』を収録した山口百恵のアルバム『花ざかり』(1977)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】秋冬に顔をだす小春『秋桜(山口百恵の曲)』ギター弾き語り』)