ドーナツ・ソング 山下達郎 曲の名義、発表の概要

作詞・作曲:山下達郎。山下達郎のアルバム『COZY』(1998)に収録。1996年、ミスタードーナツCMソングとして書き下ろされる。

山下達郎 ドーナツ・ソングを聴く(アルバム『COZY』CD収録)

この曲、ミスタードーナツCMに実際に使われているのに私も同時代に触れたことがあります。耳に残るシンプルなコーラス。みんなでトレースして歌える感じでサッカーアンセムみたいな高らかな響きを覚えるのは山下さんの声の強度と壮麗さによるものでしょうか。

シンプルで愛らしい構築の曲に思えますが音源を聴くとサウンドが壮麗なのです。いちCMソングであれど、鼻歌のようなものに甘んじない精緻でソウルフルなサウンドなのです。

サビで声が重なり厚みを呈します。「OH OH OH!」のところをダブるのはもうこの曲の外せないポイントですね。オルガンが加わることによってサウンドにメリハリ、エッジが出来て良いはたらきです。

ジューンと深く響くピアノはクレジットをみるとなんと2台も収録されているようで中西康晴さんと難波弘之さんによる演奏です。前にしゃしゃりでるパートではなく、確かな厚みをサウンドに加え、確かにそこにいるピアノの響きです。

アゴゴベルのようなチン、カカ……とかろやかなパーカッション。途中で木琴のようなトーンも入ってきます。かろやかでクリスピーな響きを加えていて、ドーナツにくっついて見た目を華やかにするチョコレートスプレッドみたいな存在感です。この木琴の音をそのままスティールパンに置き換えたらそのサウンドはリゾートチックになりそうですが、ドーナツにかぶりつく可愛げをちょうどよく表現してくれるのはきれの短いこの木琴のサウンドで間違いないでしょう。パーカッションに浜口茂外也さんもクレジットされています。山下さんも多重録音でパーカッションを演奏されるので棲み分けがオトだけではわかりかねます。お二人とも達人でしょう。

あらためて音源を鑑賞するとサウンドに聞き惚れるのですが、ソングライティングの精緻なサービス精神や出来の良さにあらためて感嘆します。

逢ったその日に虜になって だけどうまく言えなくて ふたりドーナツ・ショップさ

『ドーナツ・ソング』より、作詞:山下達郎

ドーナツショップってよりどりみどりです。目移りして決めかね、立ち尽くしてしまいます。迷います。人生の選択肢が広すぎるのです。

ここでは、登場人物の心は決まっているが「うまく言えない」様子です。目星がついていて、本命はあるのに迷ってしまう、ほかの選択肢が目をひきつけて決心を揺るがしてしまう。これもドーナツショップの陳列棚がお客にかける魔法です。

OH 君とだけ ドーナツ OH 食べたいな ドーナツ OH 甘いキス ドーナツ OH その先は ドーナツ

『ドーナツ・ソング』より、作詞:山下達郎

ドーナツを食せば、くちびるがふれます。キスせざるをえないのです。

その先はどうなる? という空耳を誘います。私がそう思いたいからそういう押韻を妄想するのでしょうか。

ドーナツには穴があって、向こう側が見えます。フレームです。なにをそこに入れるのか? ドーナツを持った人の意思でほとんどが決まるようにもおもえますし、世界は個人を置き去りにしてうごめくものであるようにも思えます。

せまるツイスト よろめくハニーディップ いつかはとろけるエンゼルクリーム

『ドーナツ・ソング』より、作詞:山下達郎

ドーナツを顔にぐっと近づけるか遠ざけるかによっても、フレーミングできる範囲が変わってきます。肉薄するドーナツの迫力よ。擬人化ですね。僕や君が、誰もが知っているドーナツ屋さんの定番メニューにスタンド・イン。恋の攻勢の様相です。

たとえば竹内まりやさんの作詞だと、歌詞で1本の長編映画を見せてしまうような妙作があったりしがちなのですが、こと山下達郎さんのこの純然たるCMソング『ドーナツ・ソング』はその好対象といいますか、シンプルで、ドーナツというモチーフの手のひらのサイズを尊重した言葉選びとカドの落とし方の妙で、鑑賞する人のほうにモチーフを通した空想や言葉のニュアンスの広まりを生じさせてくれるのです。

余談 モチーフとしてのドーナツの優

ドーナツを哲学的なモチーフと錯覚させる私の好きな楽曲に、チバユウスケさんが作ったThe Birthdayの『誰かが』という素敵な曲もあります。ドーナツってシンプルですし、特に何か、深く考えることや注意深くいることを強いるでもないのに、ただポカンとそこにあるだけで何やら考えさせるのです。

青沼詩郎

参考Wikipedia>COZY

参考歌詞サイト 歌ネット>ドーナツ・ソング

山下達郎 公式サイトへのリンク

『DONUT SONG(ドーナツ・ソング)』を収録した山下達郎のアルバム『COZY』(1998)

ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『ドーナツ・ソング(山下達郎の曲)ウクレレ弾き語りとハーモニカ』)