まえがき
妖しげなキーボードだかシンセサイザーだかの半音階(キーボードは山田秀俊さん、シンセサイザーは4人目のYMOと称される松武秀樹さんの演奏)、シャッフルビートの確かさと振り回さんばかりのエネルギー。つよつよなバックグラウンドボーカルの肉食感。タムのフィルインのサウンドの質感に時代を感じつつも、70年代のアイドル歌謡から80年代のシティポップの流れに橋がかかるようなフィールで歌手・どまんなかという感じのする河合さんの歌声のキャラクター、そのバランス感。松田聖子さんも河合奈保子さんも1980年デビューかと思うのですが、この少し後年に花の82年組などと呼ばれる歌手たちのデビューが来ることもふまえて、その風格と存在感の確かな味わいを思います。
エスカレーション 河合奈保子 曲の名義、発表の概要
作詞:売野雅勇、作曲:筒美京平。編曲:大村雅朗。河合奈保子のシングル、アルバム『HALF SHADOW』(1983)に収録。
河合奈保子 エスカレーション(アルバム『HALF SHADOW』収録)を聴く
センターが似合います。歌手のハナって感じです。バックグラウンドボーカルとのキャラクタの違いが、なんだか良きライバルという感じがしていて楽曲のなかにもどこか火花が散る緊迫感があってすごく良いのです。このバックグラウンドボーカルは新里3姉妹によるコーラスグループ、イヴが担当しているとのことです。かなりのスタジオワークをこなす業界の偉人なのかもしれません。
楽曲に緊張感をもたらすのは、間断ないシャッフルビートももちろんですが、サウンドの熱量の振れ幅もいいですね。Aメロではほとんどドラムとベースとリードボーカルしか鳴っていないような瞬間もありますが、エンディングでは「Wow Wow Wow渚は……」のコーラスフレーズと「恋して初めて知った淋しさを……」のサビフレーズが競合し、画面を2分割して平行して見せるような緊迫・情報量の高まりをみせます。
種々のシンセサイザーの多彩なサウンドも特長です。ちょっと久石譲さんのジブリ音楽、「トトロ」にでてくるような……そんなキャラクターも思い出します。
コーラスのかかったピアノのようなサウンド。尾を引くようなディレイ・こだま感で、タイトでストイックなベーシックリズムに上のほうの空間の広がりを与えます。
タムのフィルインの派手さ迫力も良いアクセントです。ハイハットの繊細なダイナミクスのニュアンスと筋力に満ちたアグレッシブさの同居が楽曲に活性を与えます。
筒美京平さんと売野雅勇さんのソングライティング。情念感、メラメラ燃える歌謡魂、作家性みたいなものをかすかに匂いとるモノ好きな私です。
歌詞のエスカレーション×コミュニケーションの脚韻。恋愛に真剣勝負、デスマッチみたいなスリルを見出す印象的なパンチラインです。
青沼詩郎
参考Wikipedia>エスカレーション (河合奈保子の曲)
『エスカレーション』を収録した河合奈保子のアルバム『HALF SHADOW』(1983)
ご寛容ください 拙演(YouTubeへのリンクShiro Aonuma @bandshijin『【寸評つき】攻めるシャッフル エスカレーション(河合奈保子の曲)ギター弾き語り』)